6話 『混沌の応接間』
部屋の至るところにちらほら見える純金製の甕、装飾がやたら精緻で細かいツボ、職人が丹精込めてこさえただろう甲冑。
成金趣味の塊のような部屋だ。
そこらの王族でもここまで金を脳裏にちらつかせる部屋は持っていないだろう。
「あなたは何をしようと企んでいるですかぁ!!」
そんな応接間のテーブルの向かいから、もはや疑問の体もなしていない問を代表は俺にぶつけてくる。
企画の対価のポイントをもらいに来たんだよ、コノヤロー!!
と怒鳴り散らしたくなったが、怒鳴ってもなにもいいことはないので、出された紅茶の湖面を見つめて気を落ち着かせる。
「いやいや、企んでいる何もありませんよ。僕たちはただポイントを貰いに来ただけですから」
「陰謀を教えるつもりもなく、更に私たちからポイントまでせしめようというんですか!」
陰謀……。
なるほど、食器屋のおっさんが何か代表に吹き込んだようだ。
それで代表がなぞのハイテンションで俺の要求を突っぱねるわけか。
やってくれるな。
「誤解ですよ。……食器屋のご主人やってくれますね。お陰でこちらは大変ですよ」
「そ、そんな、脅迫はもっと強いものだったと!? だ、だいひょおおおお!!」
「 我々を脅しポイントを集め、ピュトンの大寒気の前に一体何をしようというのです!」
なんだこいつら、キ〇ガイの振りをして適当に誤魔化そうとしてないか。
何かハイテンションすぎて怖いな。
てか、精霊様たち何やってんだよ、援護してくれよ。
俺のサイドに座っている他の面子を見る。
精霊様は紅茶を飲むふりしながらクリムゾンの横顔をちらちら見て、「やべえ、どうやって機嫌なおそう」みたいな顔をし。
クリムゾンは門の前に居た時と同じ様に、扇で口元を隠してツンとしている。
仮面Z子は「お紅茶おいしい」みたいな感じで紅茶をがぶ飲み。
だめだ、全員使えねえ。
俺で何とかするしかないようだ。
適当に話し合わせて、こっちもキ〇ガイの振りすればあっちも冷静になるだろう。
「単純なことですよ。大寒気を消すというだけの」
「あ、あなたは六帝龍のうちの一匹、氷絶龍ピュトンを討伐するというのか! そんな事をすれば大寒気のビジネスも展開する我々にも大ダメージが」
うーん。代表の顔が青くなっていく、行き過ぎだったらしい。
代表がドン引きしてるな。少し明るい方に話題そらして、方向修正するか。
「我々の幸せのためです。それにあなた方が損をすることなど何も起こりません」
「……しょ、正気じゃない。どうやってそんなことを」
「だ、代表! ですがアダルマンティーに対してこの方が起こした奇跡を見たでしょう」
「……」
俺が幸せと損をしないというどこぞのセールスマンの常套句を吐くと、代表は微妙だったが食器売りのおっさんの反応は前向きに変わった。
こちらのフォローをした食器売りのおっさんの言葉に瞑目しながら、何かを自分に信じ込ませるようにうんうんと首を縦に振る。
「……わかりました。アニムゾンさん、あなたの言葉を信じましょう。ですが、約束をたがえれば、我々とて何かしら手を打てせてもらうことはお見知りおきください」
代表が俺の目をまっすぐ見て、絞り出すような声でそう言うと小切手に筆を走らせる。
「ではまずそちらの要求のポイントの方を。これが我々露天商が出せるポイントの最大値となります」
こちらに突き出される小切手を見ると、1の後ろに五桁の0が並んでいた。
10万ポイント獲得だ。
太腹にもほどがある。俺のキ〇ガイスラングがよほどお気に召したらしい。
「ポイントありがとうございます。我々はやることがあるので。では」
俺はソファから直立し、態度でここから出ると他の面子に意思表示すると、踵を返して応接間から退出した。




