9話 マネージャーの鏡
私は邪神。
ハーちゃんという偽名を使って魔王の組織に潜入している。
帝龍を必死に探しているはずの魔王がこんなところで、アイドル活動をしているのが解せず、様子を見ているが奴に動きはない。
ただプロデューサー業務をこなしているだけだ。
「おい、アンドー。紅茶が薄いぞ」
「十分濃いだろ。もう一回入れてやるから黙って飲めよ」
「しょうがないな……」
扉バキィ!
「何やってるんですか、アナタたち!! あれほど喧嘩をするなと……!!」
「いや、別に喧嘩して」
「言い訳は無用です!!」
ボコォ!
問題行動のあるアイドルへの指導。
今日も奴はプロデューサーの鏡のような態度を崩さない。
一体何を考えているというのだろうか。
時折「全然寝相が治らない。どういうことなんだ」とメチャクチャ深刻そうな顔をするだけでそれ以外は全くつかめない。
まさか神々と敵対しておいて、寝相の心配しているだけということはないだろう。
もしたとえそうだとしたら、奴の脳みそは蒸発している。
「カタストロフダージリンの皆さん、ステージ入りお願いします」
―|―|―
ステージの上で踊っていると
「なんだこれは!? 新しい……。新しいぞ!!……素晴らしい!」
転神がこちらを望遠鏡で凝視している様が見えた。
「行き詰っていた帝龍研究の活力が復活するのを感じる!」
そんなことを奴はぼやくとスタジオの外にダッシュしていた。
―|―|―
「皆さん、ライブお疲れ様です。早く明日のための英気を養ってもらうために解散したいところですが、ちょっと時間をください。今から新メンバーの紹介をしたいと思います」
控室に来た魔王がそういうと、背後からよく見知った白髪女が出てきた。
善神ジキルだ。
奴もここにどういうつもりか潜入してきたらしい。
「皆さん、こんにちは、キールです✩ よろしくお願いします♡」
奴はこちらがねめつける中、悠々と自己紹介を始めた。