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国で暗殺されそうなので、公爵やめて辺境で美少女専門テイマーになります  作者: スイセイムシ
テイマー条約第3条 生育環境は整えなければならない
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3話 『ガチムチレボリューション』




 ゼウスは困っていた。

 女神に着の身着のままで転送されたせいで、金銭がなかったからだ。

 手にあるものと言えば、女神からもらったセイクリッドのみ。


 セイクリッドでは、飢えや渇きは潤せない。

 ゼウスに残された選択肢は略奪か、ギルドに登録し依頼をこなすかだけだった。

 だがギルドは栄えた街にしか存在しないことからこの辺境には存在しないことは明白。

 つまり残った選択肢は近くにある村から略奪か強奪するしかない。


 ゼウスはそれしかないと理性で理解してながらも、心の奥底では今までに培った騎士道精神が反発していた。

 自身が苦しいからと言って、力ある者が弱者から強奪をしていいのかと。


 ゼウスは小一時間葛藤した。

 そして理性と感情のぶつかり合いの果てに、女神(絶対的権威)の言葉である『大事の前の小事』という言葉を使うことでついに理性を感情に勝利させることが出来た。


 ゼウスは再び感情が反乱を起こす前にことを終わらせるため、可及的速やかに村に向けて侵入する。

 それから常人では気づけない速度で、一番大きな建物から金銭を拝借しようと思うと、野太い男たちの声が聞こえた。

 地面を駆けながら、声の聞えた方を見ると赤い燐光をたなびかせた屈強な兵士たちがこちらに急接近していた。

 足を止め、セイクリッドを正眼に構える。

 そこに兵士たちの刃が三方向から同時に突き出される。

 その軌道を目で予測すると手はいつものように勝手に動き出す。

 あまりにも単調すぎて、もはや思考する必要もない。

 雷のような軌道を残してセイクリッドは全て弾いた。

 男たちはまさか返されるとは思ってもみなかったのか、大きく目を見開き、動きが止まる。

 何度も剣戟を通しても、傷一つも、意識一つも割きもしないガイアと比べるとあまりにも歯ごたえがない。

 これならば、アーツを使う必要性もない。

 ガイアがいない戦場はどうしてここまで退屈なのだろうかと考えながら、ゼウスは追撃に転じる。


 だが視界の隅にたいまつを持った兵士を発見し、追撃をキャンセルして、後方に下がった。

 兵士の様子から自分がこの兵士たちを倒すのならば、村に火をつけるだろうことを悟った。

 おおよそ、その兵士はこちらには勝てないと悟って嫌がらせに転じることにしたのだろう。

 相手の補給を絶つ、軍人としては真っ当な選択だが、それをやられる村人はたまったものではない。


 こちらが下がったことに二重に驚いたのか兵士たちは目を眇めると、なぜか納得したように目を閉じ、剣を下げた。


「貴様も非暴力、不服従のガイア様の精神に感銘を受けたということか……。ガイア様を小突いていた同じ者とは思えん」


 兵士のうち一人がそう言って、「少し待っていろ」と残すとこの場を離れた。

 ゼウスの中で困惑が生じる。

 あの傲岸不遜を体現したような男が、非暴力、不服従?

 ここの連中は頭が腐っているのか?


 ゼウスのイメージと目の前の兵士のガイア像があまりにもかけ離れていた。

 ゼウスの頭の中で混沌がうごめいていると、兵士が帰ってきてゼウスに何か白いものを投げつけた。

 受け取ってみると、それは仮面だった。


「教えを乞うならそれをつけてガイア様を探すといい。 あんたの面はこの国では知らないやつはいないからな」


 あまりにも奇妙奇天烈な態度にゼウスは面食らう。

 確実にガイアになにかしらされたことをゼウスは確信した。


「貴様ら、ガイアに何をされたというのだ?」


「ふ、聞かなくてもアンタも分かってるだろ?」みたいな顔で、兵士が男らしい顔をニヒルにゆがめて口を動かす。


「ガイア様は俺たちにその崇高な精神と龍のものからなる偉大な力を与えてくださったのだ」


 男は赤い燐光を空に向けて放出しながらそういうと、どこか遠いところを見つめて目を血走らせた。

 

 正気ではない……。


 ゼウスは確信した。

 ガイアが強力な洗脳能力を持っていると言っていたが、これがその一端なのだろうと。


 なんという男なのだろうか、やはり奴は魔王。

 ゼウスの中のガイア魔王疑惑は限りなく黒に近いグレーを通り越して、もはやダークマターだ。

 ゼウスは一刻も早くガイアの凶行を止めねばらなぬと思い踵を返す。


 背後では洗脳された哀れな兵士たちが、「おら、ささっと龍の骨と宝玉を詰め! ガイア様がいるアルズ村に向かうのが遅れるぞ!」と叫ぶ声が聞こえる。

 きっと馬の骨とビー玉を龍に見えるようにされているのだろう。

 あまりにも哀れ……。


 ゼウスは自分の金銭がないことも忘れ、義憤のままに草原を駆けだした。





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