33話 ふっとした瞬間に気付く歪な眉
「アクセル」
そんな声が聞えたと思うと、どこぞの格闘家を思わせる立体軌道を描きながら、アンドーが急加速して竜とピンクの間に進んでいく。
奴が早すぎるせいで周りの人間がほぼ停止状態のスローモーションで動いているように見える。
人間が本気になればあれほどのスピードを出せるものなのかと感心していると俺はピンクの瞳に映ってはいけないものが映っていること気付いた。
「形の歪な眉……!? なんてことだ……!!」
眉の形、つまり身だしなみが整ってないなどテイマーとして犯してはいけない禁忌の一つに抵触する行為だ。
特にお咎めとかはないが、なんかヤバそうだ。
整えねば。
俺はピンクの瞳を鏡にして、懐にあったナイフで眉の形を整える。
「お前人がてんてこ舞いになってるのに何してんだ?」
「なにしてるって……。見ればわかるでしょう! 眉整えてるんですよ! ふざけたこと言わないでください」
「え……。そっちが悪いのに逆ギレ……」
なんか知らんがドン引きしたような顔をしたアンドーがずこずことゼウスちゃんのサイドに戻ると
「解除」
と唱えた。
するとアンドーだけ通常速度だったのが、アンドーを含めてスローモーションに変わる。
皆めちゃくちゃスローモーションだ。
新手のヒップホップの流派みたいになっている。
今この状態なら何やっても大丈夫そうだ。
とりあえず、危険精霊であるピンクを東の空にフライアウェイして、ゼウスちゃんとアンドーを肩に担いでヤ〇トまで連行する。
―|―|―
ヤ〇トに戻るころには感覚が慣れてきて、周りも通常の速度くらいに感じてきた。
「おい、外にいるおっさんの大群がお前に会わせろってうるさいぞ」
アンドーがそんなことを言うので、モニターを確認するとマクロファージたち政府の連中が来ていた。
政府がなくなったから、泊めてくれ的なアレだろう。
「通してください」
そういうとすぐに俺の前におっさんたちが現れる。
瞬間移動でも出来るのだろうかこのおっさんたちは。
「ま、魔王様!」
「言わずともわかっています。すべて僕に任せておいてください。アンドーさんアイズ村に移動してください」
その頼むとボタンをアンドーはポチリと捺す。
五秒くらい間を置くと「ついたぞ」と報告してきた。
「政府が焼け出されて、大変でしょうからね。是非ともアイズ村で滞在なさってください。あとはこちらの部下にやらせるので」
「我々に政府を運営することを放棄しろと?」
「そうです。政府が崩壊したのに運営もくそもないでしょう。ここですべてが終わるまでお過ごしください」
「で、ですが」
政府が崩壊したから、宿を用意してくれと頼みにきたのに、コイツ建前がガチガチするぎるな。
少し強引になってもいいから宿に泊まるように言っておくか。
「ですがも何も。今のアナタたちに出来ることはそれくらいしかないでしょう。早くこの船から降りてください」
「グっ……」
政府のおっさんたちは謎の呻きを漏らすと船から降りていた。
新手のツンデレか何かか。
政府の立て直しとかしばらくの運営するのにガチムチが10人くらい要りそうだな。
ガチムチたちも連れて魔導国に戻るか。