31話 乙女のブラックホールはカオス
俺は今竜と一緒にネットに包まれたまま下山していた。
傍から見たら網タイツで全身を覆った変態が竜を取り込んで、山を闊歩しているようにしか見えない。
竜のアギトがパージでき、視界が回復したのまではよかったのだが、肝心の竜を封じ込めるためのアーティファクトの発掘に時間がかかるとは。
このまま下山したら特殊性癖の疑いを掛けられかねない。
テイマーとして死活問題だ。
「おかしいなあ……。ここら辺においといたはずなんだけどなあ。どこ行ったかなあ」
アンドーはもう何度目か分からないそんな言葉を口に出しながらブラックホールの中にダイブしていくとともに、マリーナを担いでいるゼウスちゃんは加速度的に下山の速度を上げていく。
一方は致命的なずぼらさを披露し、一方は俺の社会生命を終わらせることに全力を注いでいる。
「ゼウスさん、早く行き過ぎですよ。もっとゆっくりでいいでしょう」
「あらゆるものごとは可及的速やかに行わなければならない」
なんだその取ってつけたようなスローガンは。
いままで一度も言ってなかったよ、ゼウスちゃんそんなこと……。
ゼウスちゃんはだめだ、あとはアンドーにかけるしか。
「アンドーさん早くして下さい。ホモの疑いの次に、ケモナーまで着いたら僕の婚活は絶望的になります」
「もうホモの次点で手遅れだろ。そう焦らせるなよ。出てくるもんも出てこないだろ」
ホモの次点で手遅れて……、お前。
なんか知らんがこいつはいろいろと駄目な気がしてきた。
何か手はないか、他に。
周りにはダッシュするゼウスちゃん、なぜか笑っているマリーナ、ブラックホールで泳いでいるアンドー。
これでなにか考えるんだ、それしかない。
するとアンドーのブラックホールから良いことを思いついた。
この中に入れば竜を封じ込めるのも俺の姿を隠すこともできるから一石二鳥だ。
「すいません、そのブラックホールの中に入れてもらえません」
「え、だめ」
「……」