26話 サガノーガバイー川
歩いていたゼウスちゃんに近づいて、「ゼウスさん」と呼ぶと彼女はダッシュで逃げだしてしまった。
俺は仕方なく、マテマテ、マテェ!の勢いでダッシュして追いかける。
しばらくするとこちらの方がわずかに走る速度が速かったのか、追いついた。
「ちょ、マテよ!」
「私をジャ〇ジアイズするな!」
パシィ!
「なんですか、ジャ〇ジアイズて……」
「うるさい!」
ゼウスちゃんは俺が肩を掴もうとすると手を弾いて、怒った。
「ほっとけばよかったのに……」
「ほっとけばって、あなた……。泣いてるのに、変なところで強情ですね……」
こっちに背を向けても、震えた声でバレバレだ。
何か気の利いた言葉が言えればよかったが、逆に揶揄するような言葉が出てしまった。
後悔してる場合じゃないか。
とりあえず、ここは大通りだし、移動しなければ。
でなければ、ゼウスちゃんの泣き顔を大衆の面前に晒すことになる。
それはさすがに忍びない。
「……」
「ここは目立ちますから、別の場所に行きますよ」
ゼウスちゃんの手を引いて、人気のない場所に連れていく。
―|―|―
サガノーガバイー川。
「ココは野菜人のバーゲンセールなんじゃああああ!」
「フウゥゥゥ! たまんねえよ! バアチャン!」
なんか人が二人くらいいたが、人気の少ない川を発見した。
そこそこ距離あるし大丈夫だろ。
俺は川のほとりに先に座って、ゼウスちゃんに座るように促す。
「……」
少し間があったが、ゼウスちゃんも隣に腰を下ろしてくれた。
横顔見ると涙の跡は残っていたが、泣き止んでいるようだった。
「今回の件は申し訳ありません。ゼウスさんとの先約をないがしろにしてまですることではありませんでした」
「……」
そうこちらが切り出すとそっぽを向いてしまった。
「先、私に『泣いてるくせに』とか言ったことは悪いと思ってないのか」
いや言ってないぞ、「くせに」とは。
「のに」とは言ったけど。
まあ本人にそう聞えたのならしょうがないか。
「それも悪かったです。ごめんなさい」
「……」
そこまで言うとゼウスちゃんはこちらの目を黙って見つめてきた。
黙って五秒くらいそうしていると不意に口を動かす。
「じゃあ、これ以上目に付く女にちょっかいを掛けるのはやめろ」
「そ、それは……」
「出来ないのか?」
「……」
さすがにそれは許してもらう条件としては酷すぎる。
それを約束してしまったら、一生独身。
賢者から妖精、妖精から何かに残念なステップアップをしてしまう。
「さすがに一生一人は辛いので……」
「ッ……!」
ゼウスちゃんはショックを受けたような顔すると再び顔を背けた。
「……私はお前を許さない」
一拍置くとゼウスちゃんは何か決意したような声でそう宣言した。
それから立ち上がると俺を見下ろした。
まずったな……。嘘でもしないと言っとけばよかった。
「近いうちに他の女にちょっかいを出せないようにしてやるからな」
俺を睨み付けてそういうと、踵を返して歩いてしまう。
完全に反感を買ったな。
これからのテイムは難航しそうだ。
「ちょっと、ゼウスさん待ってくださいよ」
何とかフォローを入れる為にその後に俺は追随する。
「お前らヤメロオ! 俺は野菜人の王子だぞ! ウああああああ!」
「黙れえええええ!」
「フウウうう! 殴るのタノシィィィィ!」
バックの川の奴らが大変なことになってるが、部外者なので放置でいいだろ。