21話 逆つり橋効果という名の狡猾な罠
「これには深い理由があるんだ、ファック!」
「そうなの、全部ミルフィさんが悪いの」「政府はクソなんだ、あんた偉い人なんだろ、なんとかしてくれよ」「閣下頼みます」「俺らは悪くねえ」
政府の人間でないと我々が判断すると彼らは、ファックマンとマリーナを中心に円陣を組んで取り囲み始めた。
こちらを何としても止めなければならないという気迫が滲みでている。
その態度から切羽詰まった何かを感じたことと、我が毒親の名前が出たことで奴らの事情を聞こうという気を俺に起こさせる。
周りの面子はどうだろうかと見てみると、ゼウスちゃんは「髪を偽るもの、身分を偽るもの……どちらを信じるか」と険しい顔で呟き、アンドーはとりまその場の空気に合わせようといった感じでキョロキョロしていた。
この感じなら事情を聞くくらいなら何ら問題はないだろう。
「うむ、そこまで言うのなら事情を聞くくらいならしましょうか。我々もすることがあるのであなた方に協力するかどうかはお約束できませんが」
「ファック! 聞くだけでも十分だ。感謝するぜ……」
ファックマンは感謝の言葉を述べながら少しふらつくと、「説明する」と言ってこちらに向かい合った。
嘘を着かれたらゼウスちゃんがブチギレるのと少し奴の様子がおかしいので、あらかじめ真眼で心理テキストを覗いておく。
地味に長いこと使ってなかったからすっかりこのアーツの存在を忘れていた。
さっきの時に使っておけばよかったな。
まあ過ぎたことを考えてもしょがないか。
ステータスでグロッキー状態とかいうそこそこヤバそうな状態でふらついた理由が判明した。
この状態では説明は無理だろう。
「えっとな……」
「なるほど、母上に乗せられて縁切りされた上、政府が暴走状態だと……。説明ありがとうございます。顔色が悪いですからさがっていただいて結構ですよ」
「すまねえ」
ファックマンはその言葉を聞くと少し驚いた顔をしておずおずと一団の中から離れていく。
まあよくわかないけど、ファックマンも悪そうだし肩入れしてもしょうがなさそうだし、今回の件は無しの方向でいくか。
やればマリーナと近づけるかもしれないが、ゼウスちゃんとの約束を破るほど彼女にひかれているわけでもないしな。
そんなことを考えているとアンドーが怪訝な眼で俺を見つめた。
「いや、お前、なんでわかんだよ……。ほとんどなんも言ってねえぞそいつ」
「僕のような侯爵ならば読心術もできるものなんですよ」
「読心術の範疇超えてんだろ」
真眼のことを説明するのもめんどくさいので、アンドーに適当に答えると
バタバタバター!
という容量でアジトに向かっていたファックマン含めてほとんどの者達が倒れ始めた。
見るとほとんどの者がグロッキー状態だ。
ここの連中はいろいろと限界を迎えていたようだ。
唯一地に臥していないのはマリーナだけだ。
マリーナは心配そうな顔つきでこちらを見つめていた。
その顔を見た瞬間に俺の中にある、ゼウスちゃんのペット確保と、美少女テイムの掛けられた天秤の秤が乱高下を始める。
逆吊り橋効果的なアレだろう。
それを認識した時には、一方にあったペット確保がぶっ飛んでいた。
「やはりペットより美少女の方が……」
「ガイア、落ち着け。美少女ならここにいるだろう。帝龍が優先だ」
俺がマリーナに肩入れしようとすると、ゼウスちゃんが低い声で囁いてきた。
俺の本能がこれを無視したらバッドエンドルート行きが確定すると語りかけてくる。
「仕方ありません。竜捕獲をしつつ、彼らの援助をしましょう」
俺はそう言ってゼウスちゃんをみる。
無表情だ。
これはグレーゾーンだな。
マリーナをテイムに向かって竜捕獲をないがしろにしてるとバレたらまずいことになりそうだ。
うまいことやらねば。




