プロローグ 『大乱闘フェアリーシスターズX』
我々、ガイア一向は草原馬車に乗り、町に帰っていた。
草原をのろのろ進んでいると、突然馬車が止まった。
何事かと馭者に聞こうと思い、扉を開けるとすぐになぜかわかった。
馬車の前に、でかでかと『カエサルちゃん誕生日おめでとう!!』という看板があり、その向こうの花畑で精霊たちがお誕生会を開いていたからだ。
精霊は気性が荒いから、下手に刺激すると何が起きるか分からない。
それゆえに馬車を動かせないのだろう。
「ふむふむ、カエサルはうれしくてしょうがないようじゃのう」
なんか聞いたことのある声が聞こえると思うと、誕生会の中にドヤ顔の精霊様発見。
この人、友達にもこんな感じなのか……。
「メっちゃん、ありがとう。プレゼントの異国情緒に溢れるこのお椀本当にうれしい。でも――」
お花畑の中心にいる緑髪ツインテールの美少女が、精霊様になにやら言葉をかけている。
表情がうれしいような悲しいような複雑な感じだ。
何か嫌な予感がする……。
「メッセージカードの出だしでネチネチ弱点を治すように勧めてくるのをやめてほしいの!」
「え!?」
そんなこと言われるとは思ってもみなかったみたいな感じで、精霊様は目を見開く。
おい、やめろツインテール!
俺の懇願を空しく、緑ツインは口を動かすのを止めない。
「親切心で書いてくれてるのはわかるけど、心が傷つくのよ。これ……」
自分もこんなことを言うのは苦しいんだからねっていう感じで目を伏せて、全部いいきった。
「……書いとらん」
「え!?」
精霊様が突飛なことを言い出し、緑ツインが驚きの声を上げる。
「儂はそんなもん書いとらん」
「そ、そんなわけないじゃない! だってここに!」
「書いとらん!」
精霊様は証拠品を無視して、断固書いとらんぞ宣言を続ける。
さすがに落ち着いてそうな緑ツインもその態度に頬を上気させる。
「書いた!」
目を剥いて「おめえ絶対書いたぞコノヤロー」みたいな態度で、緑ツインは精霊様に詰め寄る。
精霊様はさらにその態度で荒ぶったのか緑ツインに近づいていく。
「書いとらぁぁぁぁん!」
「書いたぁぁぁぁぁぁ!」
次の瞬間には花畑に大音声が鳴り響いた。
二人の目と目が交差する。
「「キィィィィィィィイ!!」」
精霊様と緑ツインは取っ組み合いを始める。
土塊とか、花とかがこっちに吹っ飛んでくる。
やっぱりだよ、ちくしょう。
「何よ、あの女! あたしのメリットビリーブ様に! ボコボコディストラクション不可避よ!」
馬車に戻ろうとすると、いきり立ったクリムゾンが中から出てきた。
俺が静止する間もなく、喧嘩の渦中に飛び込んでいく。
もはや現場は大乱闘フェアリーシスターズXだ。
「御者さん! 奴らはほっといて早くここから出ましょう!」