16話 クッ! なんてハイレベルなメシマズなんだ!
ホモ開放戦線構成員、ゴルソムは額にじっとりと汗をかきながら、憎ジャガを煮詰める鍋の中に劇毒『バロ』を入れていく。
周囲の人間が自分のしたことに気付いていないことを確認すると彼は安堵の表情をする。
「いまこそ、悲願がかなう時……」
それから彼は普通の憎ジャガにしか見えない劇毒入りのそれを見ながら小さな声でボヤいた。
1週間の前に行われた国総出のホモ捕縛作戦で、睡眠ガスを使われ、リヤカーに昏睡したホモたちが収容されていく姿を思い出し、決意を新たにし、劇毒肉じゃがをお椀に注ぐ。
別働隊の新入り二人に向けて腕を掲げると、ゴルソムは劇毒憎ジャガを持って魔王のところに歩を進めた。
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いつぞや見たガチムチの一人がこちらに向かって近づいてきているのが見えた。
「俺の憎ジャガはこれだ!」とか言って股関節を露出させないか、警戒しつつスプーンを手に取る。
暑苦しい見た目に反して、奴はどことなく緊張を保ったような静かな面持ちで俺の前までくる。
「魔王様、私の作った肉じゃがです。どうぞお召し上がりください」
そういうと奴はごく普通の憎ジャガを差し出してきた。
俺はそれをスプーンですくい、口に持っていく。
口の中で、濃厚な旨味、刺激的な酸味、のどを突くような辛味、渋みのある苦み、脳を蕩けさせるような甘みが広がる。
なんだこれは……!?
「クソまずじゃないか……!!」
味が大乱闘を繰り広げている。
一つ一つの味は一級品なのに、一つとして協調性がなく分離しまくっている。
苦みが来たと思ったら酸味、酸味が来たと思ったら辛味、辛味が来たと思ったら甘味。
俺の繊細な舌はもうズタボロだ。
「どうやらかなりの実力を持っているようですね。あなたには1000万GPを付与します」
俺は出来るだけオブラートに包んでクソまずだったことを伝えるとポイントを進呈する。
「魔王様、何か変化はありませんか?」
「特には在りません」
舌がカオスな状態だが、言ってもしょうがないので簡潔にそう答える。
「なぜだ。なぜ効かない! まあいい。もう一つの目標は達成できた」
ガチムチは何かボヤくと調理場に戻っていた。
俺はクソまずで消費したSAN値を回復させるために背後に寝かせているナイスバディに目を向ける。
すると彼女の姿がないことに気付いた。