15話 メシマズ王決定戦
「第二種目 イブクロマシマシオリョウリタイケツを始めます」
テーブルについたギルティたちにそう告げると一斉に、料理道具を手に取り目の前の食材を捌きだした。
今回のお題はアイズ村名物「憎ジャガ」。
近隣で育ってている豚型家畜ジャガーノートの肉と、キョロット、キョスギ芋、ニャガサワネギを煮込んで作るもので、素材の切り方や煮込み時間の塩梅で味が大きく変わる料理だ。
切り方が雑だったり、食材の状態を見ずに適当に煮込むとひどくまずくなるため、料理するものの性格が大きく反映されるらしく、まさにおあつらえのお題と言える。
一番メシマズだったものがギルティ。
この競技ではそれだけが問われる。
至極単純だ。
別段奴らの様子を見て、やつらのクズスキルをみる必要もない。
つまり、俺はこの種目で料理が出来るまでの間ずっと自由にということになる。
有り余る時間的余裕が俺に与えられているように思えるかもしれないが、俺には兄マンティーの誅殺すると同時にナイスバディとの仲を狭めなければいけないという任務があるのでそこまでの時間はない。
さっそく兄マンティーの調味料をすべて毒物に変えるために、毒性物質を生成するモンスターでも一狩り行ってくるか。
「できたよ!」
するとまだ開始一分も経ってないというのに、アダルマンティーがこちらにやって来た。
早すぎだろ……。
そこらの屋台でもここまで早くはない。
コイツは料理の天才か何かということか?
「食べな! 会心の出来だよ!」
奴はそういうと料理をよそってあるだろうお椀をこちらに差しだしてきた。
中に紫色の粘液が入っていた。
俺の知っている憎ジャガは固形物だ。こんなものは知らない。
「これは何ですか?」
「憎ジャガだよ!」
「……」
俺は目の前にあるそいつを見やる。
どう見てもその紫色の粘液には俺の知っている憎ジャガとの類似点は見受けらない。
料理の天才故のアレンジ料理ということだろうか。
匂いも花火みたいな匂いがするし、なんかそんな気がしてきた。
俺は自分の上にあるスプーンを取って、そいつを掬う。
糸を引いて、とても濃厚な感じだ。
そいつを口に持って行こうとして俺は自分が間違いを犯していることに気付いた。
デート中に彼女よりも先に飯を相伴するとは……。
気の遣えないモブオ、そのものだ。
ここは彼女に先に食べさせてあげるのが、出来るオトコのすることだろう。
俺は自分の口に向かわせていたスプーンを方向転換して、ナイスバディに口に向ける。
するとナイスバディは差し出された俺の手を掴んだ。
「な、何をする。そんな見るからにヤバそうなものをあたしに食わせる気!?」
どうやら恥ずかしがっているようだ。
気恥ずかしいのは、場の空気がそれじゃないことが原因だろう。
シチュエーションを整えてやることにするか。
「HAHAHA! 恥ずかしがらないでいいんですよ。はい、アーン」
俺は古来から伝わるカップルの呪文「アーン」を唱えるとナイスバディの口にスプーンを入れた。
ナイスバディは顔を赤、黄、緑の順番に変色させると、白目を剥いて昇天した。
どうやらあまりのうまさに天上に至ったらしい。
彼女の幸福度のマックスをはちきれさせることはできたが、これではイチャイチャできない。
「フ、出来るオトコはつらいものですね……」
俺は自分の有能さ故の罪深さを痛感しながら、机の脇に置かれたシーツをひき、その上にナイスバディを安置する。
さて、アダルマンティーに沙汰を伝えることにするか。
「マンティーさん、あなたの料理は素晴らしいものでしたが、彼女を昇天させた罪は重いです。1京GPをあなたに進呈します」
「ふ、こんなのまだ序の口さ」
アダルマンティーは不敵にそう笑うと、お椀を握り潰して、究極の一杯を地面に捨てた。
「まさか、まだ本気でないと……」
「そのまさかさ。次はもっといいのを作って来るよ。首を洗って待ってな」
そういうとアダルマンティーは背を向けて、料理場に戻っていく。
俺は地面に落ちて草を溶解させ天上に至らせる極上の憎ジャガを見て、もったいないと思った。




