4話 『兵などいらぬ!』
明朝、俺は寝ぼけた頭を井戸にダイブして覚醒させると、ヘルメスたちを呼びだして会議を開いた。
それというのも、朝からずっとエウゲン山の向こうから空中に向かっていくつもの斬撃が飛んでいるのが見えるからだ。
あの斬撃はノースクラメル名物、ゼウス令嬢の斬撃送りことゼウスちゃんの素振りだ。
距離的に俺の推測ではもうあと半日くらいでここに辿り着く可能性が高いと見ている。
つまり、もう軍備を整える余裕がないのだ。
進軍して、ゼウス軍を向かいうたなければならない。
「先ほどから、訳のわからないビームが空に射出されているのが見えると思いますが、あれは敵将ゼウスの宣戦布告です。我々は彼女を向かい討つ必要があります」
「馬鹿な! 私はゼウス軍が先日までノースクラメル領の中にいると聞いていました。そ、そんな早くここまで来れるはずがありません」
「ヘルメスさん、常識で捉えてはいけません。彼女は歴代のローゼリンデ家の中でも最高の寵愛を精霊から授かっています。ほとんど人間をやめているようなものですから」
「そんな敵に勝てるのですか?」
「大丈夫です。我らが皆の力を合わせれば、精霊の加護など襲るるに足らずです」
俺は上司を安心させると、クリムゾンとアダルマンティーに目を向ける。
「二人はまず、エウゲン山の方に向けて進軍してください。僕とヘルメスさんは正面に向けて進軍していきます。ゼウスを見つけしだい合図を送って、別働のもう一方が奇襲をかけることで挟み討ちにします」
「ふ、作戦なんて耳ちいことを考えるなんて、まだまだ子供ね」
「戦いはすべてフィリーングだよ。やれるときにやり。やられるときは逃げるそれが全て」
ダメだ、こいつら、脳みそが腐ってやがる。
戦は無双系のゲームじゃねえだぞ。
まあ、ゼウスちゃんが交戦確立の高いエウゲンさんに行くことに異議はないらしいことだけは良いが。
「とりあえず、二人ともお願いしますよ」
俺はバーサーカー二人に念を押すと、二人は手を「わかった、わかった」みたいな感じで手をひらひら振った。
―|―|―
二人と離れたあと、俺はヘルメスとともにガチムチ兵士を引き連れて、正面の平原を進軍していた。
奴らが、兵などいらぬ!と言ったおかげで、こちらに全兵配置だ。
おそらくゼウス軍はこちらにこないので、こんなにいたところで意味がない。
こちら側は相手方の挟み撃ちを封じる牽制に過ぎないのだから。
本命はエウゲン山側だ。
奴らなら二人で何とかなるような気もしないではないが、少し心配だ。
てか遅いな。
もうそろそろ二人ともゼウス軍と接敵してもおかしくないんだが……。
戦のセオリーは高所配置なので、絶対エウゲン山にいるはずなんだけどな。
おかしいな。
俺が訝しんでいると、馬にゴテゴテの鎧を着こませた世〇末覇王みたいなやつが正面から駆けてきた。
それでなんとなく察した。
アマゾネスはセオリーとか、そういうものに縛られていないということを。
「此度の相手は貴様らか。剣の鍛錬くらいになるか。うん、……貴様!!」
馬から降りてきたゼウスちゃんは前口上を述べるとこちらに気付いて、怒号を上げた。