2度目の告白
目覚めが良い朝とは程遠い睡眠の質。おかげで体はだるい。
また今日が月曜日ということもあって憂鬱。カーテンから差す日光は心身の状態とは真逆に、メラメラで暑苦しい。
テレビを付けてみると最高気温31℃と猛暑日になることを危惧している。
僕は親切なお天気お姉さんの忠告通りに夏服の制服に着替えて、暑さ対策をする。夏は熱中症からなる脱水症状に陥りやすいからと水筒に加え、粉末状のスポーツドリンクの素と水をいい塩梅に調合した。
学校の準備が終わり、ふと時計を見ると7時56分を回ったところだった。僕は慌てて荷物をリュックに詰め込んだ。もちろん学生寮のドアを開ける際に自転車のと寮のを忘れずに持っていく。
僕の学生寮と通ってる神奈川県相模第一高校に掛かる時間が徒歩で40分ほど。自転車の場合だと15分で着く。だから中1から愛用している自転車に乗って行くことにした。
今日は運が悪いことに道中の信号すべてに引っかかった。けれどもその先は長い下り坂が多いので楽々で間に合った。
……しかしこの日の出席簿には遅刻というふうに書かれていることだろう。
理由としては靴箱に入っていた「ラブレター」である。
折り目もなく、まして汚れているわけでもないきれいなピンクの封筒に封入されていた。これは正しく差出人の性格を表した物だ。中身は「御日柄が良く~」なんていう挨拶から始まり、最後には熱烈なプロポーズの言葉が表現を変えて幾つも綴られていた。
こういうのは女の子に免疫がなかったら照れて呼び出し先に1人じゃ行けないだろう。けれど僕は1回だけだけど告白されたことがある。その時はバカみたいに舞い上がってしまって返事を一旦保留にしてしまった。
だから近いうちに答えを出さなければならない…のだが、このラブレターの差出人ってまさか。
急いで封筒の裏を見る。そこには「中田園華」と書かれていた。
…ああ、どうしよう。もしやと勘付いていたけれど同じ人物だったとは。
僕は下駄箱の前でしばらく告白をどう返すか悩み込んでしまった。
それで気づけば朝のホームルーム終了を知らせる鐘が鳴ってしまったんだ。
ホームルームに間に合わなかったから遅刻扱いになったが、1時間目の授業には間に合った。進路は高1だからそこまで深く考えてはいないが、もし進学するのだったら絶対にしない方がいい。また遅刻しただけなのに反省文を書かされるから念押ししてしない方がいいと思う。
お昼休憩を挟んでの古典の授業も終わり今は放課後。
いつもだったら演劇同好会の部室である2-8の教室に行くのだが、やっぱ今朝のことはほっとけない。指定された場所が屋上だったのでそのまま階段を上っていった。
「告白にどう答えるのか」という最大の悩みはもちろん今もなお頭を埋め尽くしている。
「君とは付き合えない、悪いけど」と誠意を込めてお断りをするのか、「僕も好きです! こちらこそよろしく」と引き受けるべきか。でも今彼女に抱いている感情は確かに「好意」と呼ばれるものであるが、世間がいう一緒にいるとドキドキするとかその人のことを四六時中考えてしまうというロマチィックなものなのかと聞かれれば「それは違うかも」、と答えるしまうかもしれない。
なぜなら僕は性格上へタレであるから。それも「超」が付くほどに。
こんなことを考えるのはまだ早いのかもしれないが、もし付き合ってそのまま結婚する方向になったとしたら僕は彼女を、園華を幸せにできるのだろうか。
そんなことを考えて足が止まった。階段を上るばかりで人との衝突もなかったから前を見てなかったが……とうとう屋上のドアの前まで来た。来てしまった。もう逃げることはできないのだ。
また決断を先延ばしようか………『いや、ダメだ!!!』
僕の優柔不断な態度に愛想をつくこともなく、好きでいてくれたんだ。それに普通は「考えさしてくれ」なんて言われたら次告白しようだなんて思わないはず。なのに彼女は告白してくれたんだ。だったら1人の男として覚悟はしっかりしなくちゃならない。
ドアノブに手を掛ける。自然体で緊張感なんてもうない。あるのはドアを開いた先に待っている幼馴染の言葉を受けとめる心。
「お待たせ。手紙読んだよ、ホントありがとうね、僕みたいな男を好きになってくれて」
「こっちこそありがとう! 自分勝手なわたしのためにきてくれて」
……いやいや何をいうのか。園華がいたことで何度か助けられたことだってあったのだ。
それに自分では「自分勝手」などと言っているが、少し違う。彼女は確かに周りが見えなくなり、時には誰かに迷惑をかけてしまう。でもそういう時はきまって他人を手助けしているのだ。
園華曰く、「かなくんのマネをしてるだけですから」、ということらしい。
僕も部活の後輩や先生から、「かなう先輩は包容力が高いですね」とか「将来は良いお嫁さんになるわね」、とか言われている。けれど僕は自分が優しいなんて微塵も思わない。
だって見返りを求めてしまうから。
だれかの笑顔をみたい。悲しませたくない。嫌いにならないでほしい。
主にこの3つが行動原理となることが多い。
一見、これらはとても善人の考え方で理想的な人間像だと思わせる。しかし何かがひっかかるのだ。特に誰かの助けになってるときは頭に痛みが走る。
あっ、そういえば最近は朝起きた後も同じようなことがあったけ。
「じゃあ、部活もあるし言っちゃうね。今更だけど」
…話がそれてしまった。そうだ目の前の女の子は今告白しようとしてたんだった。
そう思い返すと急に心臓の鼓動が早くなった。頬の赤身も増してきた感じがする。
「うん、そのために来たんだったから聞くよ。そのかの気持ちを」
ここに桜島叶のバラ色の生活が始まろうとしていた。
幼馴染で保育園の時からの仲。夏の七夕祭りは毎年一緒に行ってるし、バレンタインのチョコをもらってホワイトデーにお返しもする。最初はそれは友チョコであって本命ではないと思っていた。「園華には好きな人がいるんだぜ」、と友達の大樹から噂話を聞かされたこともあってそれは確信していた……1度目の告白を聞くまでは。
「わたしはやっぱ諦められないの。ねぇ、かな君覚えてる? いじめっ子から助けてきてもらった時のこと…」
ちなみにしばらくは青春編が続きます。
異世界方面のは要素はまだまだかかります…。