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8.情報屋

 二人に背中を押され、通された先には、ぽつんと寂しく佇む小さな離れがあった。

 扉をノックしてみたが、返事はない。しかし鍵は開いているようで、手で軽く押しただけで容易く開かれた。部屋の中を覗いてみる。私の部屋の、西洋風の雰囲気とは違う、どこか懐かしいような――しかし日本ともどこか違う、中華風が一番近いのだろうか。そんな雰囲気が漂っている。

 まず目に止まったのは大きな提灯。入口の空間に二つ、来客者を出迎えるように吊り下げられている。鼻腔を突いたのは、線香のような香の香りだった。確か、白檀びゃくだんと呼ばれるものだ。線香と似ているが、線香よりも甘い匂いが強く、それでいてすっと鼻を通るような香りだった。


「やあ、待っていたよ」


 様子をうかがっていると、奥から声がかかる。思わず身体が跳ねたが、どこかで聞いたことのある声のような、そんな気がした。


(そんなはず、ないわよね)


 自分に言い聞かせる。ここは地球ではない。知らない世界だ。夢かもしれない。誰かの声をそう誤認しているだけかもしれない。様々な可能性が脳を巡り、そして消えていった。結局は、自分で成り行きを確かめるしかないのだ。


「初めまして。僕はセシル。君に情報を売っていた男だよ」

「初めまして……え?」


 つられて自己紹介をしようとして、動きが止まった。初めまして? この身体はロベリタのもので、ロベリタは情報屋の男と仲が良かったと聞いていた。それなのに。

 視線を上げると、青い髪の青年がそこには立っていた。壁に寄りかかり、黄金色の瞳を細めて私を見ている。笑顔とも真顔ともとれない、不思議な表情だった。


「ど、どうして、わかるんですか?」

「言っただろう。君の願い、叶えてあげるよ、って」


(その願い、叶えてあげるよ)


 それは、私が目を覚ましたばかりの時に願った事だった。

 その時に一瞬、幻のように聞こえたあの声。聞き覚えがあると思ったのは、あの声を聞いていたからだ。


「あの声……貴方だったんですね」


 ようやく自分を取り戻せたような感覚がした。情報屋に聞け、というのは、当たらずとも正解ではあったらしい。この世界で一番私の情報を知っていそうな存在に出会えたことが、何より嬉しかった。


「どう? ロベリタの身体は」

「……自分が自分でないみたいです」

「そりゃあねえ。自分じゃないもの」

「どうして、私はロベリタに……これは夢じゃないんですか?」


 詰めかかる様に問い詰める。すると彼はくすくすと笑って、私の頬を突いて見せた。


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