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7.屋敷の離れ

 情報屋。そう呼ばれる男は、この大きなお屋敷の離れ、人目を憚る様にひっそりと居を構えていた。なんでも、毒を盛られる前の私が、どこかから拾ってきた人物だという。ますます深まる‘今の自分’への謎に、私の心は騒ついていた。

 情報屋のいるという離れに入る瞬間、アランの姿が見えなくなった。正確には、強く床を蹴ったかと思うと、軽い動作で天井裏へ消えた。


「情報屋の空間は不可侵なんだ。僕は姿を消すよ」


 分を弁えてるからね、とは、前を歩くバーナードへの嫌味だったらしい。ついてくる気だったのだろうか、颯爽と歩いていた後ろ姿が止まる。振り向いた顔は、不機嫌そうに眉間に皺が寄っていた。


「護衛役も外すんじゃ、俺はついていけない。ここからは一本道だ、自分で行け」

「そう、なのね。わかったわ、ありがとう」


 口を突いて出た言葉にぞっとした。わかったわ。普段の自分なら、わかった、と標準語を使うはずなのに。不思議と動作さえもこの身体はロベリタを惜しんでいるように思えて、背筋が凍る。私はロベリタではない。名前すらない。元居た地球で使っていた標準語さえ私の中から消えかかっている。

 不安を振り払うように前へ進むと、ふと、腕を掴まれた。異世界でも重力はあるらしい、ぐん、と体が後ろへ引っ張られて、私は振り向いた。バーナードが私を引き留めたのだ。


「どうしたの?」

「……」


 首を傾げて見せても、彼は何かを考えこんでいるようで、反応がない。

 気まずい空気が流れた。こちらから何か言うべきか、でも何と言おう、そう考えた時、彼の顔がこちらへ近づいてくる。


「……!?」


 唇に微かな熱。後頭部に回された手。キスをされたのだと気が付くまで、何拍かかかった。

 燃えるように赤い髪とは対照的な、冷たく蒼い瞳が私を射抜く。


「誰にも渡さない」

「え?」

「例えあの護衛役でも、戦うことになったとしても。俺が人を斬るのはお前のためだ」

「ひ、人を……斬る?」

「誰が相手でも、俺は容赦しない。覚えておけ」


 熱が離れる。体の中央で、心臓が大きく脈打っている。

 行け、と背中を押される。私はそれに従うことしかできなかった。

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