61.馬車
(もしかしたら、本物のロベリタが彼を寄せ付けなかったのも……危険だと思ったからなのかもしれないわ)
この世界では、何が優しいのかがわからない。否、それは元の世界でも同じだったか。生きるというのは難しい。改めてそう思う。
「まあいいわ。今日はドレスも持ってきましたの。先の件で着られなくなったでしょう?」
「え? あ、うん。……はい」
「もっとはっきりと返事をなさい。貴族がそれでは下々の者はどうしますの。わたくしからの贈り物ですわ。では」
気が付くと、私の部屋のクローゼットは開いていて、真新しい蒼いドレスが加わっていた。彼女なりの友愛の証なのかもしれない、と気が付いて、立ち去ろうとするクリスを呼び止めた。
「あ、待って。クリス」
「なんですの?」
「ありがとう。……色々と」
「気色悪いですわね。このくらい、なんともありませんわ。貴方もよく休みなさい。では」
私なりに感謝の意を述べたつもりだったのだが、彼女はいたってクールだった。記憶がないというだけでも違和感はあるだろうに、気にする素振りもなく立ち去って行く。何も聞かず、詮索せず、我関せずと言った風に。
ロベリタだったらどうしていただろう。毒の一つでも吐いていたのだろうか。ふとそんなことが頭をよぎり、首を振った。考えても仕方のないことだ。私はすぐ傍で不貞腐れているアランへと向き直った。
「アラン。危険なことをするときは、主である私に言うこと。良いわね?」
「いちいち報告してたらキリがないよ」
「それから、ハーバードのことも。……流石に歩いては行かないから、ちゃんと教えて頂戴」
「はーい」
本当に分かっているのだろうか、この少年は。
「それから。……馬車がないってのも、嘘じゃないでしょうね?」
「……」




