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6.情報屋という存在

「あ、アラン?」


 問いかけてみたけれど、彼はひたすらに笑みを浮かべているだけだった。


「どうしたの、おねーちゃん」


 なんて、とぼけた声で聞いてくる。

 私の中に広がった不穏を尻目に、ハーバードが口を動かす。


「何、人の婚約者に抱き着いてんだよ」


 問題はそこなようで、そこではない。どうやら先程のアランの囁きは、彼には聞こえなかったらしい。その事実に、身体が勝手に安堵した。違和感を覚える。私はなぜ、安心なんかしているのだろう。婚約者ならば聞こえていなければいけない筈で、仮にアランが不穏な空気を纏っているなら、気づいて貰ったほうが良い筈なのに。これが事なかれ主義というやつなのだろうか。

 自分の身体が勝手に感じた感情に違和感を抱きつつ、私は口を開く。私は誰なのか、この武器の扱いはどの程度上手かったのか。父親と母親のこと、婚約者だという彼の身分のこと。知らなければいけない全てを、私は今すぐに聞かなければいけない気がした。


「お前の素性と家のこと、俺の立場は答えられるが……そうだな。その辺りのことは‘情報屋’聞いた方が早いんじゃないか」

「情報屋?」

「毒を盛られる前、お前が頻繁に出入りしてた男のことだよ。俺の知らないことも、そいつなら教えてくれるだろう。お前は特に謎が多かったからな」

「謎が、多かった……?」


 羨ましいくらいに、こんなにも恵まれていて、愛されているのに?

 いったい何を隠すというのだろう。

 私ではないロベリタのことが気になって、私はぞっとした。私はロベリタではない、現実の名前も覚えていない。この世界でも、元の世界でも、誰でもないような空っぽ。アランが言った通りになんでも詰め込んでしまえるけれど、今の私には何もない。そんな気がして、焦りが生まれた。


「お姉ちゃん? 大丈夫? もしかして、僕が空っぽだなんて言ったから怖くなっちゃった?」


 アランが私に近づいてくる。ふわ、とまたストールが揺れて、耳元で囁かれる声。


「でもね、俺は謝らないよ。お姉ちゃんは僕のものだもの」


 くす、と漏れた笑声。私は慌てて、振り切るようにハーバードに向き直る。


「連れてって。情報屋のもとに。今すぐ……!」


 それは、悲痛な願い。

 自分でも自覚できるくらいに、迷子の子供のような声だった。


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