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53.人殺し

「……初めての人殺しは、どんな気分だい?」

「貴様……!」


 セシルの言葉に、アランが激昂する。私は他人事のように、良いのよ、なんて言ってアランを抱きしめる。こうすれば彼が落ち着くことを知っているから。それは紛れもなく、ロベリタの者ではない、私の記憶だった。

 それをかき集めるように、彼を抱きしめていた。彼の体温を感じていたかった。暖かい子供の体温。子供にしては大人びた体温。全てすべて、私の記憶だった。


「……お姉ちゃん? 怖かったよね。俺がもっと早く、殺気に気づいていれば」

「大丈夫よ。大丈夫。私、生きてるもの……」


 人殺し。正真正銘、この世界の人間になった気分だった。もう一度辺りを見回すと、黒い覆面の男は私たちだけを襲ったようだった。周りは騒然としている。その中にクリスの姿を見つけて、私は思わず目を逸らした。駆け寄ってくる音が聞こえる。


「ロベリタ! いったいどうしたんですの、これは……」

「ごめんなさい。ドレス、汚れちゃって……」

「そんなのまた贈りますわ! ……っ、なんてひどい……この人数では、護衛役が一人では足りないではありませんか」


 辺りで倒れている男の数を見て、苦々し気にクリスが吐く。やはり、この世界の常識は、私の世界と少しずれているらしい。私が人を殺したことよりも、この世界では質土で着る人数かが問題らしい。


「その心配はないよ。僕もいたし……彼女も戦ったからね」


 実質三人だ、と言ったセシルの顔を、クリスが睨みつける。


「ロベリタ。気をしっかり持ちなさい。これは……何も、おかしなことではないのです。わたくし達上流階級の人間は、いつでも狙われています。時には、貴方が剣をふるうこともあるでしょう。記憶がないとはいえ、それは自覚なさい」



 私はクリスの言葉を聞きながら、その腰元を見る。クリスの腰にも、細い剣が下がっていた。ハーバードの持っている件によく似た剣だ。

 ふわりとした意識のまま、頷く。ドレスの裾でナイフを拭き、鞘へと納めた。刀身が見えないだけで、いくらか落ち着いた気がした。



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