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52.刺客

 荒い息。血の匂い。ナイフの先から伝わる、相手の痙攣。事切れる刹那の断末魔――。

 全てが私に降りかかってくる。それを自分が起こしたのだと自覚するまで、アランに抱き留められるまで、私は茫然としていた。

 何かが蘇る。鮮やかに。嗚呼、これは身体の記憶だ。


 ――お父様、お母様、ごめんなさい。

 ――ごめんなさい、ごめんなさい……!


 泣いている少女の声。これは私の声だ。否、ロベリタの声だ。

 両親を殺した時の記憶。朧げになっていた、鮮やかな鮮血の記憶。痙攣する身体、何かを言おうとする唇、抱き留めようと手を伸ばす手。――それでいい。そう囁かれた、愛情の記憶。

 それを機に、ロベリタは大声で泣きだす。誰もいない場所で。誰もいなくなった場所で。どうして、どうして、誰に向けての者かわからない問いを叫びながら。そうしてそれはやがて、ゆっくりと、心を蝕んでいく。


 ――この世界に呪いを。死にゆく私に祝福を。

 ――ねえ、私の、××××――……。


 ロベリタが私に振り返る。いつの間にか私の意識は、記憶の中のロベリタと分離していた。ノイズがかかる。誰。誰を呼んでいるのだろう。ロベリタは私を見る。泣きながら、笑いながら、私を――


「お姉ちゃん!」


 大きく身体を揺さぶられて、私の意識はロベリタの身体に引き戻された。

 血を浴びたアランの顔がそこにはあった。周りには何人もの覆面の男が倒れている。


「アラン……?」


 名前を呼ぶと、抱きしめられた。良かった。吐息が耳にかかる。私は血まみれになったナイフを握り締めて、洗わなければ、と思った。洗って、どうするんだっけ。刃を研いで、研いで、研いで、大事にしなくちゃ。これは大事なものだから。

 大事な私の、武器だから。


「何度読んでも反応がないから、心配したよ。ロベリタ嬢。……派手にやったもんだね」


 血まみれの私を見ながら、セシルは言う。派手に、何を。人殺しを。

 どうにもならずに私は、誰かを殺して、ようやく生きている。ふわふわと宙を漂っているようだった。



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