45.瞳の色
「お姉ちゃん、大丈夫?」
アランが小さな声で言葉をかけてくる。その声に、我に返った。雰囲気にのまれたのかもしれない。私は慌てて、表情を取り繕う。全てを殺して、押し殺して、にこやかに微笑んで見せた。
「わたくしは、そうでなければなりません。何にも恥じぬよう生きなければいけないのです。せっかく頂いた命ですもの」
――この、夢のような、幻のような世界で。
セシルはどんな顔をしているだろう。この生を私に分け与えた彼は。どんな気持ちで、この言葉を聞いているんだろう。
相変わらず。相変わらずであり続けていられているだろうか、私は。ロベリタだったら何を言うだろう。何を聞くだろう。探りながら、言葉を探した。取り巻く状況の中の糸口を探った。
「ハーバードの毒は……どんなものだったんですか?」
気づけば私は、そんなことを口にしていた。口にしてから、思わず掌で口をふさいだ。湿原だった、と我ながら思う。こんな社交界の場で、煌びやかな会場で。咄嗟に、セシルが同行している今聞ければ、何か掴めるかもしれないと思ったのだ。
しかし女王陛下は、嫌そうな素振りなど微塵も見せず、私の問いに答えてくれた。
「詳しいことは分からないわ。でも、あの子が気づくのが早かったおかげで、死には至らなかったようなの。……賢い子だわ」
「それは、親殺しの儀式の場で?」
「ええ。……全く、不吉な儀式です。こんなことばかり繰り返しているから、争いは止まらないのよ。王も何を考えているのか……」
本当に困ったような、憂うような表情だった。見ていて気の毒になるくらいに。
「私が見ましょうか、女王陛下。まがりなりにも、薬を扱っておりますので」
「あら。貴方……魔法の国の……でも残念だわ、毒はもうすべて処分しきってしまったのよ」
セシルの申し出に、女王陛下は初めて瞳の色に気が付いたようだった。金の瞳は、魔法の国独特の色なのだろうか。確かにこの国ではセシルと女王陛下以外、瞳の色は青い色をしていた。この会場に集まっている人々も、殆どが青い色の瞳をしている。アランは例外として。




