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44.現実と幻

 思わぬ女王陛下のお声がけに、私は緊張を抑えきれずにいた。

 何せ、社交界という公の場に出ることも慣れていないのだ。女王陛下自らが声をかけてくるなんて事態を、予想できるはずもない。


(というよりも、いくら身分が高いとはいえ、そんなに気軽に話しかけてくるものなのかしら……)


 なんと答えたら良いか迷っていると、助け舟を出したのはセシルだった。


「ロベリタ嬢。緊張しているのは分かるが、女王陛下に挨拶ぐらいはするものだよ」

「え、あ、はい……! お元気そうで何よりです。女王陛下」


 次いで言葉を投げたのは、人形のように気配を殺していたアランだった。


「失礼。我が主は、先の毒の影響か、記憶が混乱しているのです。ご無礼をお許しください」

「まあ、そうなの……ハーバードと言い、貴方と言い、悪い事というのは続くものだわ……」


 一気に女王陛下の顔色が、憂いを帯びた色に変わる。そこで私は、ハーバードがこの人の息子なのだと思い出した。

 親殺しの儀でもめている、という情報ばかり入ってきていたが、この人も人の親なのだ。いや、親だからこそ、親殺しの儀に反対しているのかもしれない。その真意までは伝わってこなかったので、私は勝手に、知らぬ間に女王陛下のことを魔法の国の人間だと無機質に思っていたことを恥じた。


「ご心配をおかけしました。ですが、少しずつ回復し、こうしてこの場に顔を出すことができました。ハーバード皇子も、きっとすぐに回復するでしょう」

「そうね。……そうだと良いのだけれど」

「……?」


 何故だか違和感を覚えた。女王陛下が、ふ、と目を逸らしたから。

 まるで私の視線から逃れるように。


「貴方の目は相変わらず真っ直ぐね。自信に溢れているわ」

「そう、でしょうか。自信……」


 そんな筈ないのに。今度は私が目を逸らす番だった。

 何故だろう。急に、元の世界のことを思い出した。


(ほかの同期はもう結果を出しているぞ。君だけパッとしないな)

(××さんって、この仕事向いてなさそうですよね)

(――もう愛せない)


 自分の名前だけ、ノイズがかかったように霞んで聞こえる。ロベリタ。それ以外の名前を拒むように。自信なんてない。何処にも。あの世界に私の居場所なんてなくて、このロベリタの生は贈り物のようなものだ。必要とされていて、求められて、名前がちゃんとある。ロベリタ。私は胸に手を当てた。その名を失くさないよう、噛み締めた。

 こうして地に足をつけようとすると、まるで夢でも見ているようだった。目の前で人が死んだことも。目の前の人々も。憧れの中の情景。――私は今、どこに立っているんだろう。

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