36.レッスン
それからの日々は地獄だった。
アランをからかうセシルと、何かとセシルに突っかかるアラン。そんな二人に挟まれながら、社交界のルールを教え込まれる羽目になった。
「はい、もっと背筋伸ばして。挨拶は?」
「御機嫌よう」
「嫌味を言われた時は?」
「まあ、冗談がお上手ですのね。見習いたいですわ」
まず嫌味を言われること前提なのが、考えただけで疲労感の増す状況だ。
幸い、身体は社交界に慣れたロベリタのものなので、背筋を伸ばす、お辞儀をするということに対しては思っていたより苦ではなかった。この調子だと、有事の際にはナイフだって普通に扱えてしまうのかもしれない。彼女は文字通り、貴族として何たるかを身体に教え込んでいったのだ。
それでも私にとっては慣れないことで、思っていたより苦ではないとは言っても、新郎はどんどん溜まっていった。
「お疲れ。大部サマになってきたねえ」
「ありがとうございます」
「お姉ちゃんだもの。できないことなんてないよ」
「それは買い被りすぎじゃないかしら。私にもできないことはあるのよ」
今は一度休憩を、とのことで、アランとそろって二人、セシルの淹れてくれたお茶を飲んでいる。
暖かいお茶だ。ほうじ茶によく似ているが、ほうじ茶よりも甘く、香ばしい。この世界の建物も飲み物も、私の住んでいた世界とは、少し似ていて、少し違う。改めて、ここが異世界なのだと思い知らされる。
忙しくて事務的になっていたが、出される食事も、私の世界で言うイタリアンやフランス料理に近いのだけれど、香りが独特でどこか違う。胡椒からして違うのだろう。食べたことのない味、というのが率直に出た感想だった。




