35.婚約者代理
「アラン。あのね、私、社交界に出ることになったの」
「社交界? お姉ちゃんが?」
今はひとまず天井のことは置いておこう。それよりも、話を進めなければいけない。
アランの肩に触れ、そっと諭すように語り掛ける。それまでセシルを睨みつけていたアランだったが、社交界の話を聞くと、驚いたように目を見開き、私を見てくれた。
「……お姉ちゃん、まだ休んでた方が良いんじゃないの? 身体に負荷がかかるよ」
「でも、ハーバードも倒れてるのよ。王族と王族に連なる家の者が不在にするわけにいかないでしょう」
「それじゃあ僕が婚約者代理で……」
「それも、もう決まったの。セシルが出てくれるそうよ」
アランが再び、セシルを睨みつけた。視線で人を射殺さんばかりの眼光だ。
当のセシルは、どうも、なんて間延びした声で手を振っている。
「こんな男に務まるもんか! 僕が出るよ」
「情報を集めるためでもあるのよ。わかってちょうだい、アラン」
「そーだよ。しつこい男は嫌われちゃうよ、護衛役君?」
「もう、だから煽らないでってば!」
何度叱っても、この二人はお互いに煽り合ってしまう。どうしたものかと思案していると、アランが納得のいかない表情で口を開いた。
「……護衛役として傍に就くよ。それでもいい?」
婚約者として、か、護衛役として、か、大して変わらない気もしたが、セシルが良いんじゃない、と助言してくれたので、私は承諾することにした。
そんな中で、一抹の不安がよぎる。
(この二人、明らかに相性悪いと思うんだけど……大丈夫かしら)
慣れない社交界に、慣れない環境。その中でこの二人を宥めなければいけないのかと思うと、それだけで辟易とする自分がいた。




