表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/67

34.破壊者

(でも……どうしてこの人は、社交界のルールなんて知ってるのかしら)


 疑問が浮かんだが、聞いても教えてくれなさそうだ、と思った。


「わかりました。……ルール、ちゃんと教えて下さ――」


 教えてくださいね、と言いかけたところだった。

 突如として目の前の天井が崩れ去り、誰かに抱きかかえられた。セシルの姿が遠のく。


(え、は?)


「おや、思ったより早かったねえ。護衛役君?」

「お姉ちゃんを、返せ……この狐野郎!」


 アランの声だった。恐る恐る抱き留められた状態で視線を上げると、人を殺す勢いでセシルを睨みつけるアランの顔があった。いくら細い身体とはいえ、自分よりも年上の女性の身体を軽々と抱えている。その可愛い顔に似合わない剛力さに驚きながらも、先ほどの情報屋の言葉を思い出す。


 ――天井裏も不可侵ってことにしといたんだ。目くらましは得意さ。


 目くらましは得意じゃなかったのか。こうも早くアランが痺れを切らすとは思っていなかったので、思わず溜息が漏れる。


「……どういうこと?」


 問いかけてみたが、二人は私なんてそっちのけで対峙している。


「ここは不可侵だと伝えたはずなんだけどねえ。どういうつもりだい?」

「うるさい、お姉ちゃんの傍には僕がいなきゃいけないんだ」

「彼女を助けてって言ったり、返せって言ったり、忙しいね君は」

「それ以上言えば殺す。お姉ちゃんは渡さない」


 誰か助けてほしい。しかしハーバードは王城で寝ているし、大して助けになるとも思えない。むしろ、事態を悪化させる可能性だってある。

 二人は無言で対峙している。あの、という私の声も無視だ。セシルはセシルで扇の向こうにその表情を隠しているし、アランはアランで敵意むき出しだ。社交界の話どころではない。


「あの、落ち着いて? よく話し合ったほうがいいと思うの」

「お姉ちゃん。なにもされてない? 大丈夫?」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「何もしないよ。薬は飲ませたけどね。口移しだったらどうする?」

「貴様……殺してやる」

「セシルも刺激しないで! アラン、そんなことないから、一回離してくれる?」


 これでは堂々巡りだ。アランは素直に私の言葉だけは聞いてくれた。赤い絨毯の敷かれた床に、裸足のまま降り立つ。まだ少し景色が揺れ、頭痛がしたが、今はそんな場合ではなかった。


「アラン、セシルの言う通りよ。不可侵なら、護衛役でも席を外さなければいけない時があると思うわ」

「前のロベリタ様ならね。今のお姉ちゃんは違うよ。僕のものだもの」

「全く。目くらましたしておいたのに、どうやって解除したの?」

「そんなの知るか。全部壊した」

「全部壊したって……まさかここまでやるとはね。ロベリタ嬢。同情するよ」

「ぜ、全部って、天井を余すことなく全部壊したってこと!?」


 思わず寒気がした。全部壊したということは、全部直さなければいけないということだ。

 一応今の屋敷の主は私なので、私が恐らく、何か手配しなければいけないのだろう。

 今日何度目かの溜息が漏れた。襲撃や奇襲の時の判断力は冷静なのに、どうしてこうも、日常生活において落ち着きにかけるのだろう。いや――。


(普通の子供って、案外、そういうものなのかもしれないわ)


 幼くして当主になったのだ。子供である部分が歪に出ているのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ