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凄いイケメンと凄い美少年



「誰ですか、あなた」

「お前、何言ってるんだ? 大丈夫か?」


 ようやく発する言葉できた言葉に返ってきたのは、どこか焦りの混じった声だった。両腕に痛みが走ったかと思いきや、肩を捕まれて揺さぶられている。ぐわんぐわん、と頭痛がひどくなって、私は眩暈を起こした。前から身体はそんなに強い方ではない。

 やめて下さい、と言いかけた時、すぐ背後から人の気配がした。その気配は私を掴んでいる腕を引きはがしたかと思うと、私の肩を抱き寄せる。暖かくて小さな、子供の体温だった。


「やめなよ、ハーバード」


 女の子の扱いじゃないよ、と声が続く。声のした方を見ると、美しい少年がそこにいた。白に近い銀髪に赤い瞳。ハーバードよりも軽装で、首に長いマフラーのようなものを巻いている。ええと、確か、あれはストールというやつだ。

 ハーバードと呼ばれた青年に勝るとも劣らない。髪の毛一本一本の煌めき。血を垂らしたような鮮やかな赤。よく動く身体にあわせてひらひらと踊るストール。


「綺麗……」


 私は思わずそう呟いていた。あまりにも、その銀髪の少年の瞳、白い肌が美しかったから。陶器でできた人形が喋っているような感覚。桁違いのイケメンと桁違いの美少年。その両方に戸惑って出た言葉だったが、少年は私の声を聞くと、僅かばかり目を見開いた。


「……え? 俺のこと?」


 言われ慣れていないのだろうか。

 ハーバードと呼ばれた人とは違った動揺が走っている。みるみるうちに白い肌が紅潮していく。そこまで照れなくても良いと思うんだけど、と言いかけて、私は言葉を飲んだ。もしかしたらこの夢では、これくらいのイケメンは当たり前なのかもしれない。だって私はお酒を飲んで眠ってから記憶がない。夢だと考えるのが妥当だ。


(でも、良い夢)


 現実よりも余程良い。細い身体と必要とされているような嬉しさ。守られる安心感。ふと、私は現実世界での仕事のことを思い出した。


(何をやっているんだ。他の同期の子はもっとうまくやっているぞ。君だけだ、そんなに使えなくてどんくさいのは)


 ああ、私、仕事でも躓いてばっかりだったっけ。


(ごめん、お前さ、社会人になってから明らかに太ったよね? その身体じゃ愛せないよ)


 恋愛でも躓いてばっかで。こんな風に守ってくれる人なんてどこにもいなかったなあ。

 そう考えると、涙が出た。目を覚ましたくない、そう思った。強く、強く、祈るように。この夢がずっと続きますように、と。


(その願い、叶えてあげるよ)


 え?

 一瞬、知らない声が聞こえた気がした。しかし、慌てふためく目の前の二人の声で、その余韻はかき消される。


「ちょ、泣いてるじゃん。ハーバード! あんたはいっつもきつ過ぎるんだよ!」

「こいつがそんなことで泣くタマか? 俺はこいつのこと、ずっと知ってるんだ。別の原因があるに決まってる。」

「相変わらず高慢ちきだね。言っとくけど、お姫様に傷をつけたら僕が許さないから」

「護衛役風情がでしゃばるな。今までそんなこと言ったことなかったろ。それとも、綺麗だって言われて惚れでもしたか?」

「短絡的な考えだね。気にしなくて良いよ、姫様。僕が守ってあげるから」


 何やら険悪な応酬が目の前で始まってしまっている。私が原因、なのだろうか、これは。夢にしてはやけにリアルな展開だなあと思いつつ、私は笑顔を作って見せた。


「だ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから……」


 慌てて涙をぬぐうと、少年が心配そうに覗き込んでくる。綺麗な顔に迫られて、私は自分の顔がどんどん紅潮するのを感じていた。


「無理しないでね。姫様」

「そ、その姫様っての、やめてもらっても良いかな?」


 なんだか気恥ずかしい。この世界での私の身分は知らないが、ロベリタという名前があるならそっちで呼んで貰ったほうがまだマシだ。実際、ハーバードという人もそう呼んでいるわけだし。


「でも僕は護衛役だよ? そんな奴に名を呼ばせて良いの?」

「ご、護衛役? ごめん、よくわからない」

「お前、もしかして記憶がないのか」

「ええと、そう、なの、かな」


 ハーバードに詰め寄られて、私は自然と身を引いた。遮るように少年が彼を手で制す。


「毒の副作用かもしれないね。ごめんなさい、僕が迂闊だったばかりに」

「ど、毒!?」


 毒って、何。


「お前、毒盛られて倒れてたんだよ。覚えてないんだな、やっぱり」


 呆れたハーバードの声と共に、不吉な事実が明かされたのだった。


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