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13.魔法の国

「……あまり気に病むな。お前は両親と仲が良かったものな」

「え……そう、だったの?」


‘わたしにとっての親は、神であり、教育者であったけれど、いつか消える飴細工のようなものでもあった’。

 ロベリタは夢の中でそう語っていた。飴細工。甘くて綺麗だけれど、なめているといつか崩れてしまう。嗚呼、そうか、いつかいなくなるという気持ちを抱きながら、いつか殺さなければいけないという気持ちを抱きながら、彼女は両親を好きになってしまったのだ。

 そして――この世界に、絶望していた。幸せの続かない世界。好きな人と共になれても、子を産めばその子にまた殺される。屍を踏み越えながら歴史は続く。


「だからこんなに……悲しいのね」


 だからこそ、早く終わらせれば何かが得られるのではないかと、希望を抱いたのだ。しかしそれは彼女の思い込みでしかなかった。一縷の望み。それは彼女にとって、両親への最期の甘えだったのだ。


「俺は腰抜けだ。お前に先を越されてしまった。……護衛役に言われたとおりだ」

「そんなことないわ。貴方は優しいのよ。前の私が、間違えただけ」

「前の私?」

「ううん。……なんでもない」


 前の私のことは、そういえばアランとセシルしか知らないのだった。

 こうしていると、それさえ忘れそうになる。ハーバードの与える冷気が、あまりにも心地よいから。


「魔法の国が半分混じっているって言ったわね。魔法の国も、親殺しの儀があるの?」

「いいや。向こうは師弟関係でものが決まるからな。基本的に、武具の国だけだ」

「じゃあ、ハーバードの場合は、武具の国の親御さんだけ、その……殺めることになるのかしら? 向こうの国の人を殺すわけにはいかないものね」

「その辺りで色々とも揉めていてな。結果、お前に先を越される形になった」

「価値観が違うんだもの。仕方ないわ。命ってのはそう軽いものでもないのよ」

「お前は……優しいな」


 蒼い瞳がす、と細められる。口元に浮かんだ笑みは、この世界で見た誰の笑みよりも優しかった。落ち着く表情だ。アランのように腹の底を隠すものでもなければ、セシルのように扇で隠されたものでもない。そうか、ハーバードは正直な人なのだ。


「貴方も優しいのね。目が覚めて出会った人の中で、一番まともだわ」

「そうか。……表向きはそう見えるのかもしれないな」


 頭をぽん、と撫でられる。表向き、という言葉が引っ掛かったけれど、追及するのも難しい気がして、私は口をつぐんだ。

「魔法の国って、どんなところなの?」

「なんだ、情報屋は教えてくれなかったのか」

「ハーバードやアランに聞いた方が良いって言っていたわ。貴方が半分魔法の国の人間だからだったのね」


 微睡みの中で、密やかに囁かれる会話。なんだかわくわくして、私は思わず笑みをこぼしていた。

 ハーバードがそれを見て、驚く。


「別人みたいだな」

「え?」

「毒を盛られる前と。昔はそんなこと、聞きもしなかったのに」


 僅かに頬が紅くなっている。照れている、のだろうか。

 昔。彼にとっての昔のロベリタは、どんな存在だったのだろう。

 優しい時間も過ごしていたのだろうか。それとも、あの夢のロベリタが語っていたように、冷たく映っていたのだろうか。


「今日はもう休め。もう悪夢を見ることもないだろう」

「え……どうしてわかるの?」

「長年の勘だよ。一緒にいる時間は長いからな」


 ハーバードは、掌に浮かばせていた球体をぎゅっと握りこんだ。水気が跡形もなく消える。けれども心は落ち着いていて、瞼は解けるように重く感じられた。


「……おやすみなさい」

「ああ、お休み。魔法の国のことはまた教えてやるよ」


 微睡みの中で、ハーバードが私の頭を撫でる。

 それは初めて感じた、優しい時間だった。


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