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マリアージュの場合 誤解

今回、『事実無根』までもって行けませんでした。

今回は『誤解』です。家族の中の誤解を解くので精一杯でした。

もう少し続きます。

頬が痛いですわ。

腫れてきましたね。



ふう。


ソファでぐったりとユリアが差し出す冷たいハンカチを頬に当てています。

父親は本当に気づかなかったのでしょうか。それとも……

まだ、目覚めて数時間しかたっていませんのに色々事が起こりすぎですわ。




こんこんこん。


ドアのノックにユリアが反応しました。すぐにドアの傍で誰何しています。私は行儀悪くソファでぐったりと横になっています。

ベッドにいたのではまた何かと不便そうですもの。


あら、ドアを開けるのですね……

母親でしたか。たぶん、先ほどの父親の件ですわね。ではきちんと背筋でも伸ばして……

そして後ろにはいるのですね、彼女が。



ああ、頬が痛いですわ……

何も叩かれた方を叩かなくとも……

さて、何が言いたいのでしょうね。



「気がすまれましたか、お母さま?」


「な、何を言っているのです」


「何も?わたくし、お母さまには何も言っておりませんけれども?それともわたくしの言いたい事がお分かりになられるのでしょうか?ああ、それではすぐに出ていきましょうね。嬉しいでのでしょう?」


この娘の中にあった気持ちを全て出します。

何も言わないでここまで我慢してきたのでしょうが、私が我慢することはないでしょう?


「あ、あなたは、私があなたを嫌っているとでも思ってっ」


「わたくしが何を言いまして?言っておられるのはそこでお笑いになってらっしゃる方でしょう?ねえ、ラシーヌさま」


「貴女は何を言ってるのかしら?」


くすくす。私の頭の中の記憶には噂話しも残っています。ただ、それはあの娘が気にしている事では無かったから気にも止めていなかった事。

行き遅れた理由が恋に破れたせいなんて。留学から帰ってきたら結婚するのだと一人で勘違いしていたせいなんて。

まあ噂話ですから、どこまで本当のことなのやら分かりませんが。


「何を笑っているのですっ!」


バシッ!

いつものように扇子を振り上げ、手のひらを叩こうとしてきましたわね。ですが、私はあの娘ではないのですよ?人目も有りますのに……何時ものように素直に手のひらを出すわけないではありませんか。扇子は身を捩った私の背を打ちました……

痛いですわ……


そのまま気を失ってしまいました。

私は目覚めたばかりなのに、痛い思いしかしていません……

この娘はずっとこのような仕打ちを受けて来たのかしら……



私は基本、愛されていましたのね。

痛い思いも悲しい思いもたくさんしましたけれども、このようにただただ虐められ続ける生活は一度もなかったわ。

嫌になってしまうのも少しは分かる気がしてきました。

けれども、これだけで済むのでしょうか……

王族のかたに扇子で叩かれはしましたが、これだけで首を落とされるような事はならないはずですわ、私の知っている常識では。

まだ何かが隠れているのでしょうか。





「マリア……なんてこと……マリア……目を開けて……」


どこか遠くでずっと声が聞こえています。


「あなたを手放すのでは無かった……どうしても……王族にほしいなんて……もっと話せば」


「ああ……掌の傷はどれだけ痛かっただろう……許してほしい……許されるとは思わないが……親なのに知らずに来てしまった……すまない……すまない……」


「あなたがこんなに痛い思いをしていたなんて……あなたの髪色も瞳の色も……今では現れにくくなったこの家にのみ伝わるものなのに……」


…………

遠くで聞こえていた声がはっきりと聞き取れるようになってきました。あら、髪の色も瞳の色もこの家のものなのね……

ではあの父親と母親の真実の子供だったのね。しかも王族に求められて王宮にいたのか……




度重なる扇子での殴打は、この娘の指の腱と精神に傷を追わせていた。マリアージュがマナーにおいて失敗するのも、食事と茶時においてだった。身体と精神に傷を追わされそれ故の失敗を知らされた両親は、眠る娘の傍で謝り続けている。


王女ラシーヌは王宮に戻され、離宮に蟄居させられる事となった。彼女は自身の侍女とともに押し込められ生涯を終えることとなった。







少しずつ、意識がはっきりしてきました。


泣き言を聞くのも飽きてきましたね。この身体と私はまだ馴染みきってはないようです。周りの声は聞き取れたり、出来なかったり。そろそろ目も開けたいところ……


ふう。そう一息ついたら、あら急激にしっかりと声が響いて来るようになりました。



目を開けると、父親の顔も母親の顔も近いですわ……

二人とも目が真っ赤でしてよ……

知らないだけみたいでしたのね、お互い……

両親は虐待を、マリアージュは愛されている事を。


あら……

黒髪の可愛らしい少女もいますのね……ああ、これが出来の良い妹ですのね。可愛らしいこと。そして、羨ましいこと。父親の真っ直ぐな黒髪に母親の青い瞳。確かに姉妹には見えないでしょうね。言われない中傷を信じたのも分かる気がしてきました。色だけではなく、雰囲気も父親に似ていますのね。スッキリと延びた鼻先、引き締まった口元……ええ、父にそっくり。目元は母に似て少し垂れぎみ……しっかりどこから見ても両親の子供。

マリアージュとは大違い。

黄金の巻き毛、小さくぼったりした唇、透けるような肌……


目が開いてじっと見ていると、力強い手にぎゅっと抱き締められました。細い柔らかな指で頬を撫でられ、小さな指で手を撫でられています。ええ、愛されているとこの身体がいっています。


いつだって礼儀正しく挨拶を交わし、一歩引いた心で接していたのが嘘のよう。三人に愛されているのだと……瞳から涙が溢れてなりません。


「お父様、お母様……アンナリージュ……ごめんなさい……誤解をしていて……」


「いいんだ、そなたを苦しめていてすまなかった。知らずにいてすまなかった」

「ごめんなさい。あなたを苦しめていて……何にすがっていたのかしら、何年も……ずっと優しくしてもらっていたあの方があのように貴女を虐めていたなんて。私のせいで貴女があんなにも傷つけられていたなんて。ごめんなさい、ごめんなさい」


「おねえさま、これからはわたしと遊んでくださるの?ずっとずっと待っていたの」


こんなにも愛されていました。




もっと話してしまいましょうね。

学園であったことも。そうすれば穏やかに暮らせるのかしら……


この娘の中にあった幸せな光景のように。





次回は『事実無根』です。


マリアージュの場合がもう少し延びてしまいました。


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