マリアージュの場合 目覚め
短いです。
頭の中にこの身体の情報が流れてきます。激流のように。
この娘の表層の出来事ですが、何故ここまで我慢を重ねてきていたのでしょう。
両親に似ていない色……
父親は漆黒の髪に黒の瞳。
母親は隣国から嫁入りした銀の髪に青い瞳。
周りから揶揄される、不倫の上での娘と。
恥も外聞もない娘。
それ故、第一子なのに王家へ嫁入りさせられる娘。
公爵家の第一子が第三王子に嫁ぐという、ある意味家から捨てられた娘。
陰で噂されようが耳に伝わるその声、その嘲り。
ついには婚約者である第三王子にすら嫌われ、そばにさえ寄せ付けぬようになっていく。
傍らには下位の娘を抱いていると伝わってきた。
家につけられた取り巻きは一大事と騒ぎ立てる。
騒がぬよう、言い渡すが聞き入れはしない。
何故なら彼ら自身が困るからだ。
派閥の主がこのような事では困るとさえ言われる。
彼女は何故ここまで我慢をしたのでしょうか。
意識が反転する。ぐるぐると視界がまわり、ぐにゃりと崩れた。
目の前には一冊の本が……
ぱらりぱらりとめくり、この身体は読み進める……
『まあ、こんなふうに貶めるなら仕方ないわよね』
グラスに入った何かを飲む。
『馬鹿じゃないの? 素直に破棄すればいいのに』
何かをつまみ口に入れる。
『でも、こんなのがいいのかしら。ヒロインもビッチだよね。見る目ないよねー』
ヒロインとは?ビッチとは?
分からない言葉でぼそぼそと話す。辺りには誰もいないというのに。
ぱらぱらと読み進めると。
断罪された娘はすべての罪を背負い首を斬り落とされる。
最後の頁には挿絵が……
豪奢な金髪は無惨にも切り捨てられ紫紺の瞳を見開いたままゴロリと転がる頭部。色の抜けきった白い肌は赤黒い線に覆われている。
そこで記憶はとぎれる……
私も記憶を持っていたがここまで酷くは無かったように思うの。
そうして目を覚ました私は知らないところに寝ていたようです。
周りを見回しても覚えのないものばかりです。
そして、誰か分からない女性に泣かれていました。
誰かしら。頭を傾げてしまいました。
「マリアージュ!マリアージュが目を開けたわっ」
頭に響く高い声で、耳を両手で押さえてしまいました。
記憶を探しても見覚えがありません。
銀の髪に青い瞳から涙を流して……
もしかしたら母親なのかもしれません。
「あた……ひび……しず……か」
声がうまくでません。のどはがらがらで、頭もふらふらします。
横からコップに注がれた水が差し出されました。
起きてコップを受け取ろうとしましたが、腕にも身体にも力が入らず起き出せません。すると、別の手が身体を支えて起こしてくれました。その手は背には何かを入れて座りやすくして、コップを持ち、口元に……
水を一口。のどが生き返るよう。もう一口。飲み干す度に身体が満たされるようです。
ですが、コップ一杯分も飲めば一息ついたように、意識がはっきりしてきました。
誰でしょう。この手は。
振り替えると黒髪の女性が私を支えてくれていました。
記憶にはありえない女性の手でした。
次回は『家族』です。
続きます。