表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/50

大森林へ――

 精霊界と妖精界、人間界の狭間にあり、さまざまな野生動物、魔物、獣人に、妖精族、精霊などの魔法生物が生息する果てなき森――大森林。


「わっ、すご~い!」


 そこは、ユマラの知る森とは大きく異なっていた。

 天を突くような木々が生い茂り、森の緑が覆っていて青空は見えない。

 太陽の輝きは木の葉を通し、緑色の光となって地面を照らす。


「綺麗……」

『だが、気を付けろ。ここには、凶暴な魔物も生息している』

「そこの鼠ほどじゃないけれど」

『なんだと!?』


 大森林はユマラの知らない森であった。空気からして、違う。


「私の知っている食材なんて、あるのか……あ!」


 さっそく、見知った食材を発見した。

 ユマラは駆け寄って、薬草ハーブを摘んだ。


『なんだ、それは?』

「ローゼマリー草です!」


 肉料理に使われる薬草で、消臭、抗菌、抗酸化作用がある。


「なんか、狐獣人の森で採れる物よりも、香りが濃い気が……。大森林だから?」


 ユマラは持って来ていた包丁で、一気に根元から切る。台所から持って来た籠の中に入れた。


「あ! そういえば、大賢者様はどんな料理をお望みで?」

「君、本気でここに住むの?」

「もちろんです! おいしい食事を作りますので! で、何が食べたいですか?」

「別に、なんでも」

『そういう曖昧な回答が、一番困るのだ! と、全国の主婦が思っている気がする』

「何それ?」

『聞えぬのか、全国の主婦の嘆きが! 』


 喧嘩腰で話しかけるウラガンを、ユマラはまあまあと諫める。


「今まで、別に食へのこだわりなんてなかったし。半魔族だから、人間みたいに三食食べなくてもいいし」

「い、一食だけ!?」

『こやつは夕食しか食わん。そのくせ、木の実は飽きたとか、文句を言いおって』


 衝撃を受けた表情を浮かべるユマラ。目を見開いたまま、告白する。


「あの、私は狐獣人なのですが、三食……食べ……ます。その、スミマセン」

「いや、君は普通に三食食べなよ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 嬉しそうなユマラに、ちょっと引き気味のエアハルト。


『ちんたらしてないで、行くぞ!』


 ウラガンが急かしたことにより、食材探しは再開される。

 ユマラは突然、木の上を指して叫んだ。


「わっ、あれ、ホロホロ鳥!! とっても、とってもおいしい鳥!!」


 ホロホロ鳥――焼いたり煮込んだりすると柔らかくなり、ホロホロになることから名付けられた。

 狐獣人の森では滅多に見かけず、仕留めたら高値で取引される。

 木の上にホロホロ鳥の巣があることをユマラは発見した。


「え、でもすっごくでっかい! なんだあれ!」


 驚くべきことに、狐獣人の森で見かけたホロホロ鳥よりも、かなり大きかったのだ。

 全長は五メートルくらいある。見た目も獰猛そうに見えた。


「だ、大賢者様、あれって、ホロホロ鳥です、よね?」

「そういう名前だったと思う」

「大森林の中は高濃度の魔力が満ちている。だから、生物もあのように大きく育つんだ」

「だから、さっきのローゼマリー草も狐獣人の森で採れる物と違ったのですね」


 子育て中のホロホロ鳥は警戒心が強い。ギロリと、巣の前で佇むユマラ達を睨む。


「うわっ、目、目が合った!」

『ギャア!』

「ぎゃあ!」


 ホロホロ鳥は翼を広げ、襲いかかってきた。

 なぜか、走って逃げたユマラのほうに飛んでくる。


「ヒエエエエ! 私は、食べても美味しくないです!」


 頑張って逃げていたが、石に引っかかって転んでしまった。


「ぎゃっ!!」


 振り返ったら、ホロホロ鳥が迫っている。


「あの、あのあの! 私、この通りガリガリだし、ぜんぜん、まったく、美味しくな――」

『ギャーア!!』

「ヒイッ!」


 頭を抱え、ぎゅっと目を閉じ、衝撃に備えたが――何も襲って来ない。

 何かがチカチカと光っていたので目を開ける。

 すると、ホロホロ鳥の下に大きな魔法陣が浮かび上がり、氷の槍が身を貫いていた。ホロホロ鳥は一撃で絶命している。

 ホロホロ鳥の表面はうっすら氷が張り、氷結状態となっていた。


「なっ、これは――大魔法……!?」


 エアハルトが杖を構え、佇んでいる。


「あの人、生活力皆無でぼけっとしているけれど、本当に大賢者様なんだ!」

「おうい、狐獣人の娘、無事か?」

「この通り、まったくの無傷で!」


 ユマラはエアハルトに礼を言う。


「大賢者様、ありがとうございました!」

「別に、大したことでは」

「そんなことないですよ! 大したことです!」


 褒め慣れていないエアハルトは、明後日の方向を向いていた。


『よし、とりあえず、食材確保だな!』

「で、でもこれ、どうやって持って帰ればいいのか……」

「簡単だよ。魔法で持って帰ればいい」


 エアハルトは魔法の呪文を唱え、ホロホロ鳥を宙に浮かせる。


「すごっ!」

「初歩的な魔法だけれど」

「いや、物質に魔法をかけて、その状態を維持するのって、かなり難しいんですよ。私も魔法を多少使えるので解るのですが……これが簡単な魔法(・・・・・)って、さすが、大賢者様」


 帰ろうとしていた一行であったが、ユマラが待ったをかける。


「あ、待ってください。ホロホロ鳥の卵もおいしいんです! けれど……」


 大森林の樹は天に届きそうなほどに大きい。かなり高い位置に巣があるので、取れない。


「おいしいのに……残念」

「じゃあウラガン、取って来て」

『へ!?』


 エアハルトの魔法で、ウラガンはホロホロ鳥の巣まで飛ばされる。


『ギャアアアアアア!! 許さん、許さんぞおおおおお!!』


 ウラガンは巣に着地する。


『ハアハアハア(い、生きてた。ほっ)!』


 ホロホロ鳥の卵は、ウラガンよりもかなり大きかった。


『よ~し、狐獣人の娘、落とすから、受け取れよ』

「へ!?」

『せいっ!』


 力自慢のウラガンは巣から卵を投げる。かなりの高さから落としたので、剛速球となった。


「ヒイ!」


 ユマラは受け止めきれずに、卵を避ける。

 卵は割れずに、地面にのめり込んだ状態で着地した。


「殻、めっちゃ硬っ!」


 エアハルトは卵に疑惑の目を向けていた。


「それ、食べられるの?」

「たぶん」


 神殿に戻って、料理を作ることにした。

アイテム図鑑

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ