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新_ショートストーリー集  作者: ノーリターン新
6/13

演舞・美的派

見た目がすべてだ。格好つけて、演舞を華麗に舞う。

演舞を磨くそのセンスは、極めようとするその裏側の本心は 何をなげいているのだ。


「キャーッ!カスタード様あ!素敵ーっ!」


派手でビートの効いた、メロディアスな音楽が割れんばかりの音響で場内に鳴り響く。残響が耳にこびりつく。


美しいこの仮面は、どんな観客も魅了する。

ファンのとろけるような、憧れの眼差しは美意識を加速させる。

本当の気持ちなんてどーでもいいことだ。

眠れない夜をいくつ数えても。

舞台に立つ快感は、世俗のたわむれから自分を切断してくれる。ワタクシと寝たがっているメスなど腐る程居る。

ワタクシの市場だ。


ある日の舞台で客の一人が石を投げてきた。幸いワタクシにはぶつからなかったが。

浮浪者が紛れ込んでいる。黒服は何をやっている。給料泥棒が!


今夜のまいは精細さに欠けるブザマな出来だ。

すぐに楽屋に引っ込んで、酒を飲みたい。


「キャー!カスタード様あっ帰らないでえっ!」




「カスタード。今日はもう店じまい?」


「ああ、キャンディ。汚らしい客が石を投げこんたんだ」


大道具部屋に使い回しの看板が無造作に立てかけてある。

”カスタード・ミレイ。愛と賛美の演舞・美的公演”

なんともごたいそうなタイトルだ。恥ずかしすぎる。


「カスタード。最近痩せたんじゃない。ちゃんとご飯食べてる?」


「ああ、食欲がないんだ。ダイエットになって丁度いい」

「ワタクシの美しさがまたファンを虜にする」


「そうかしら?私にはあなたが無理をしているように見える」


「!」

「キャンデイ・リグレット!何を言っているっ?」


「まあ、怖い!舞台のあなたと普段のあなたは」

「まるで別人ね」


「もういい、消えてくれキャンディ。今日は気分が悪い」


「はいはい。王子様」


ある夜ワタクシは。公演を早めに切り上げて。最近客の中に紛れ込んでいる。不浮浪者の一人を尾行し始めた。


「気づかれていないな」

「あんな汚らしい格好をしていてよく恥ずかしくないものだな」

「!」

「・・・・・・」

「後ろを振り返った。バレたか?」

「・・・・・・」

「ふう、このワタクシが隠れるとは。世もスエだな・・・・」

「!」


誰かが後ろから私の腕を掴んでねじ上げる。


「い、痛い痛い!やめてくれ。ワタクシを誰だと思っているっ」


「知っていますよ。カスタード・ミレイさん。あなたの全てを」


「!」

バカな。あんなに離れたところに居た浮浪者が。

一瞬でワタクシの後ろに立って居るなんて。


「お前は誰だ?いったい何者だっ?」


「私はカスタード・ミレイ。あなたですよ」


「ふ、ふざけるな!冗談を言うんじゃない!」


「おやおや、おっかない。どうか落ち着いてください」


「・・・・・・」


「私はあなたの内面の世界から来ました。あなたの影です」

「人間の内面には、世界と同じ広さの内宇宙が存在するのですよ」


「!」

「いい加減にしろ!お前頭がおかしいんじゃないのか?」


「さて、おかしいのはどちらでしょうかね」

「カスタード・ミレイさん」


「くっ、もう逃げないから手を離してくれ」


「ああ、これは失礼しました」


この汚らしい男は、さっきから異臭を放っている。

耐えられない臭いだ。風呂に入る事を知らないのか?


「私の顔に見覚えはありませんか?」


「!」


なんということなのだ!この男はワタクシと同じ顔をしている。


「お、お前は一体何者だっ」


「だから、あなたの影だと言ったでしょう」

「言い換えれば、あなたが殺し続けるあなた自身ですよ」

「あなたは多くの魂にうらまれています。その生き方のせいで」


「!」

「く、くだらない!もう帰る!」


後ろを振り向きワタクシは道を引き返そうとする。


「お止めしませんよ。ミスター・ミレイ」

「あなたは、これから災難が襲います。心を入れ替えない限りね」


「!」

「面白いジョークだ。ほれ、おだちんだ。とっておけ!」


ピィンッ・カラカラカラ


ワタクシは振り向きもせずに硬貨を投げ捨てる。貧乏人め!




ある日の公演で。変化が起こった。ビートの効いた音楽が鳴り響く中。称賛の嵐だった、演舞が。いきなり固まってしまった。

ワタクシだけが固定されたかのように止まってしまったのだ。


「どうしたの?カスタード様。動かなくなっちゃった」


「カスタード様・・・」


ファンのメスどもはワタクシを助けようともせずに。

ボンボンやのぼりをその場に投げ捨てて帰ってしまった。


パチパチパチッ・・・


「!」


「見事ですよ、ミレイさん」


あの浮浪者だ!ワタクシに何をしたっ。だがワタクシは固まってしまっていて。何も喋れない。


「説明しましょう。あなたが悲しませたオンナたちの魂の怨念が

あなたを止めたんです。美しいハク製となるように」

「なに、瞬間固定液体を噴射する事も出来ましたが」

「それほど、人の情念とは恐ろしいものだという事ですよ」

「カスタード・ミレイさん」

「あ、私ですか?」

「私はあなたですから、当然あなたと運命を共にしますよ」

「再びあなたの内宇宙に戻り。変わる事のない時間を過ごします」

「永遠にね?」


派手な音楽だけが場内に鳴り響く。


ワタクシの公演はこれで最後を迎え、演舞は新しい新人のガキに任された。ワタクシは生きたまま、はく製状態となり。ガラスケースに入れられて。店の通路に飾られて、客のメスどもに好奇な目で見られる。さらし者となった。


あがなう事も出来無い、これが罪と罰だと言うのか。

仕事仲間のキャンディ・リグレットが悲しそうな目で飾られているワタクシを見る。


「カスタード。あなたが演舞したプログラムは全部」

「新人の男の子がコピーしたわ。あなたが築き上げたものが」

「すべて奪われてしまった」

「これがあなたの運命なの?カスタード・ミレイ・・・」


・・・・・・・・・・


ワタクシは剣を右手に振りかざして、両手で天を仰ぐ。

右膝を曲げて、固まっている。

ワタクシは何も言うことはできない。涙を流すことさえも・・・





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