演舞・美的派
見た目がすべてだ。格好つけて、演舞を華麗に舞う。
演舞を磨くそのセンスは、極めようとするその裏側の本心は 何をなげいているのだ。
「キャーッ!カスタード様あ!素敵ーっ!」
派手でビートの効いた、メロディアスな音楽が割れんばかりの音響で場内に鳴り響く。残響が耳にこびりつく。
美しいこの仮面は、どんな観客も魅了する。
ファンのとろけるような、憧れの眼差しは美意識を加速させる。
本当の気持ちなんてどーでもいいことだ。
眠れない夜をいくつ数えても。
舞台に立つ快感は、世俗のたわむれから自分を切断してくれる。ワタクシと寝たがっているメスなど腐る程居る。
ワタクシの市場だ。
ある日の舞台で客の一人が石を投げてきた。幸いワタクシにはぶつからなかったが。
浮浪者が紛れ込んでいる。黒服は何をやっている。給料泥棒が!
今夜の舞は精細さに欠けるブザマな出来だ。
すぐに楽屋に引っ込んで、酒を飲みたい。
「キャー!カスタード様あっ帰らないでえっ!」
「カスタード。今日はもう店じまい?」
「ああ、キャンディ。汚らしい客が石を投げこんたんだ」
大道具部屋に使い回しの看板が無造作に立てかけてある。
”カスタード・ミレイ。愛と賛美の演舞・美的公演”
なんともごたいそうなタイトルだ。恥ずかしすぎる。
「カスタード。最近痩せたんじゃない。ちゃんとご飯食べてる?」
「ああ、食欲がないんだ。ダイエットになって丁度いい」
「ワタクシの美しさがまたファンを虜にする」
「そうかしら?私にはあなたが無理をしているように見える」
「!」
「キャンデイ・リグレット!何を言っているっ?」
「まあ、怖い!舞台のあなたと普段のあなたは」
「まるで別人ね」
「もういい、消えてくれキャンディ。今日は気分が悪い」
「はいはい。王子様」
ある夜ワタクシは。公演を早めに切り上げて。最近客の中に紛れ込んでいる。不浮浪者の一人を尾行し始めた。
「気づかれていないな」
「あんな汚らしい格好をしていてよく恥ずかしくないものだな」
「!」
「・・・・・・」
「後ろを振り返った。バレたか?」
「・・・・・・」
「ふう、このワタクシが隠れるとは。世もスエだな・・・・」
「!」
誰かが後ろから私の腕を掴んでねじ上げる。
「い、痛い痛い!やめてくれ。ワタクシを誰だと思っているっ」
「知っていますよ。カスタード・ミレイさん。あなたの全てを」
「!」
バカな。あんなに離れたところに居た浮浪者が。
一瞬でワタクシの後ろに立って居るなんて。
「お前は誰だ?いったい何者だっ?」
「私はカスタード・ミレイ。あなたですよ」
「ふ、ふざけるな!冗談を言うんじゃない!」
「おやおや、おっかない。どうか落ち着いてください」
「・・・・・・」
「私はあなたの内面の世界から来ました。あなたの影です」
「人間の内面には、世界と同じ広さの内宇宙が存在するのですよ」
「!」
「いい加減にしろ!お前頭がおかしいんじゃないのか?」
「さて、おかしいのはどちらでしょうかね」
「カスタード・ミレイさん」
「くっ、もう逃げないから手を離してくれ」
「ああ、これは失礼しました」
この汚らしい男は、さっきから異臭を放っている。
耐えられない臭いだ。風呂に入る事を知らないのか?
「私の顔に見覚えはありませんか?」
「!」
なんということなのだ!この男はワタクシと同じ顔をしている。
「お、お前は一体何者だっ」
「だから、あなたの影だと言ったでしょう」
「言い換えれば、あなたが殺し続けるあなた自身ですよ」
「あなたは多くの魂にうらまれています。その生き方のせいで」
「!」
「く、くだらない!もう帰る!」
後ろを振り向きワタクシは道を引き返そうとする。
「お止めしませんよ。ミスター・ミレイ」
「あなたは、これから災難が襲います。心を入れ替えない限りね」
「!」
「面白いジョークだ。ほれ、おだちんだ。とっておけ!」
ピィンッ・カラカラカラ
ワタクシは振り向きもせずに硬貨を投げ捨てる。貧乏人め!
ある日の公演で。変化が起こった。ビートの効いた音楽が鳴り響く中。称賛の嵐だった、演舞が。いきなり固まってしまった。
ワタクシだけが固定されたかのように止まってしまったのだ。
「どうしたの?カスタード様。動かなくなっちゃった」
「カスタード様・・・」
ファンのメスどもはワタクシを助けようともせずに。
ボンボンやのぼりをその場に投げ捨てて帰ってしまった。
パチパチパチッ・・・
「!」
「見事ですよ、ミレイさん」
あの浮浪者だ!ワタクシに何をしたっ。だがワタクシは固まってしまっていて。何も喋れない。
「説明しましょう。あなたが悲しませたオンナたちの魂の怨念が
あなたを止めたんです。美しいハク製となるように」
「なに、瞬間固定液体を噴射する事も出来ましたが」
「それほど、人の情念とは恐ろしいものだという事ですよ」
「カスタード・ミレイさん」
「あ、私ですか?」
「私はあなたですから、当然あなたと運命を共にしますよ」
「再びあなたの内宇宙に戻り。変わる事のない時間を過ごします」
「永遠にね?」
派手な音楽だけが場内に鳴り響く。
ワタクシの公演はこれで最後を迎え、演舞は新しい新人のガキに任された。ワタクシは生きたまま、はく製状態となり。ガラスケースに入れられて。店の通路に飾られて、客のメスどもに好奇な目で見られる。さらし者となった。
あがなう事も出来無い、これが罪と罰だと言うのか。
仕事仲間のキャンディ・リグレットが悲しそうな目で飾られているワタクシを見る。
「カスタード。あなたが演舞したプログラムは全部」
「新人の男の子がコピーしたわ。あなたが築き上げたものが」
「すべて奪われてしまった」
「これがあなたの運命なの?カスタード・ミレイ・・・」
・・・・・・・・・・
ワタクシは剣を右手に振りかざして、両手で天を仰ぐ。
右膝を曲げて、固まっている。
ワタクシは何も言うことはできない。涙を流すことさえも・・・




