第5話 化物と僕
僕の話である。
基本的に平々凡々、特にこれといった事件もなく普通に高校生まで生きて来た僕ではあるが、そんな僕でも唯一、他の人がなかなか経験した事のないであろう貴重な体験をした事がある。
小学生の頃だったと思う。学年は忘れたが、まだ10歳にもなっていない歳だったから、2年生か3年生くらいだろう。
やんちゃな時期だったから、立ち入り禁止の廃墟だとか墓だとかによく忍び込んで遊んでいた。たぶん、家でゲームや勉強なんかをやっているよりも、外で意味もなくはしゃぐのが好きな時期だったのだろう。肌も健康的に焼けていたし、とにかく元気だった。
あの日もほんの軽い気持ちで、当時既に使われていない廃ビルに忍び込んだ。誰と行ったかは覚えていないが、たぶん、僕も含めて5人はいただろう。女子もいたような気がする。
そこで、僕達は化物と遭遇した。
化物と表現するしかなかった。
凡そ人とは思えない巨大な体躯に、刃で出来たかのような鋭い爪が、手足の指からそれぞれ伸びていた。
眼球も鼻も口も異常に大きく、そして肌の色が赤かった。
体毛は無く、頭にも髪の毛のようなものは一切なかった。
唯一身に付けているものといえば、股間を隠す為に腰に巻いている布だけだった。
異様な臭いがした。
化物の背後には、犬や猫や野鳥を食い殺した跡――。
仲間の1人が逃げ出した。
小柄だが足の速い男子だ。
他の者は僕も含めて、腰を抜かしてしまって身動きが取れないでいた。
化物はその巨体からは想像も出来ないほど機敏な動きで、その男子を捕まえた。
爪が男子に刺さって、彼は悲鳴を上げた。腹から大量の血が出ている。
化物は彼を捕まえたまま持ち上げる。
彼はそれでも必死で化物から逃げ出そうともがいてる。
突然、化物の股間から巨大な棒のようなものが露出した。
それには、無数の棘が鱗のように並んでいて、少し濡れている。
化物が男子の衣服を強引に爪で引き裂く。
僕は化物が何をしようとしているのか察して、目を見開く。
僕と捕まった彼以外は、恐怖で気を失っている。
化物が少し笑った。
化物は男子の股の間から、その棒を思い切り突き刺した。
男子の内蔵が口から飛び出す。
化物は何度か男子を揺さぶった後、壁に叩きつけるように彼を投げ捨てた。
――完全に死んでいる。
化物は気を失っている僕の仲間に手を伸ばし、同じように痛ぶって殺した。
女子も男子も関係なかった。
僕は仲間がなぶり殺されている間、全く身動きが取れなかった。
――ああ、殺される。
もはや元々は誰だったのかもわからなくなった女子の死体を雑に投げ捨てると、悪魔はへたりこんでいる僕を睨んだ。
周りに生きている人間は他にいない。
どうやら、次は僕の番のようだ。




