プロローグ
そこは、地球によく似ていた。
そこに、人間はいなかった。
そこは、平和だった。
そこ…食物星は、地球からは観測できない程、果てしなく遠い場所にあった。
そこに住んでいるのは「フード」と呼ばれる、人間によく似た外見をした生物たちであった。
彼らには種族があった。
米、パン、粉物、麺類、菓子などの…。
さらにそこから細分化され、数多くの種族たちが食物星で暮らしていた。
彼らはそこから、種族ごとに集まり、国を持ち、暮らしていた。
そこは、平和だった。
おにぎりは米国で、ロールパンはパン国で……幸せに、暮らしていた。
だが、そこに異変が訪れる。
各国代表者会議でのことである。
米国代表、ハクマイが、パン国代表のショクパンに、こう言ったのである。
「米とパン、どちらが朝食に相応しいか。」と。
彼らの星は、確かに地球からは離れていた。
だが、彼らは地球人の暮らしに興味があった。
地球人が、今と異なる姿の自分達を、モノも言えず動けない自分達を、食べる。
そんな暮らしに興味があった。
この星に生命が誕生し、生活を営んできたのは、ここ数千年前からだと言われている。
つまり、自分たちがこうやって種族ごとに暮らしているのは、地球での食生活が、何らかの影響をこの星にもたらしているからである。
彼らはそう考えていた。
故に、ハクマイはそう、発言した。
しかし、興味本位から発せられたその言葉は、ショクパンには癪に障った。
挑発だと捉えたのだ。
そしてこう言ってしまった。
「朝からぼそぼそした米なんて食えない。」
そう、言ってしまった。
それがハクマイにも怒りを覚えさせてしまった。
ハクマイは言った。
「では、どちらが主食に相応しいか。腹に溜まらぬパンは、相応しいと言えるのか。」
会議の二日後、米国はパン国に宣戦布告した。
それを待っていたかのように、各地で次々に戦乱の息吹が吹かれていった。
「どちらが白ごはんと食べて違和感がないか」と争う粉国と麺国。
さらには国の中で、「どちらが女子に人気か」と争う菓子国の和菓子と洋菓子。
そこはもう、平和ではなかった。
不幸か、それとも幸か。
彼らは戦のやり方を知らなかった。
文明はあったが、平和なこの星に、戦争をするような武器や兵器はなかった。
平和過ぎたのである。
地道に、相手を殺す道具をつくりながら、彼らは戦った。
そんな中、米国とパン国の間で、ある出来事が起こった。
戦争が始まってから約一年後に起こった、後に「発酵の光」と呼ばれる出来事である。
パン国は大量殺戮兵器を完成させ、それを導入した。
「カク」と名付けられたそれは、米国の兵士、そして一般フード民を数多く殺した。
米国は、不幸を嘆いた。
パン国は、一時はその幸に喜び、そして自らの行為に嘆いた。
この「発酵の光」が両国の兵器づくりを減速させた。
慎重になったのである。
そんな中、パン国はある情報を耳にした。
「米国が、フード自身を使った兵器づくりに力を入れている」と。
たったそれだけの情報は、パン国内部を荒れさせることにはならなかった。
この情報が入ってからというもの、米国がフード兵器なるものを戦闘に使用してこなかったからである。
パン国は米国を、ホラ吹きだと笑った。
戦局は疲弊したまま、既に二年以上が経過していた。




