Zn 時に薬となり得る
その翌日、子供達に片手で掬える程度の量の朝食を食べさせて、拠点探しの続きを始めた。
無論、そう易々と見つかるはずも無く。数時間置きの休憩時間中、例の二人はまた頭を悩ませる。
「流石に、労働力に乏しい儂等を住まわせてくれる場所は無いようじゃな」
「だからこそ誰かの場所に住まわせてもらう必要があるって言うのは、承知の上だよね」
しかし、どれだけ悩もうと最良案が見つからない。また今日も野宿しか無いのか、と言う結論が出かかる。
だがそれは出来ない。いつまでもこの様な暮らしが続けば、徒に不安感を煽る事になりかねず、そうなると誰がどんな行動をするかが分からなくなる。完全な予想外が起きれば、鼠算式に悪影響が広がっていく。
ミゲルが言ったように、彼らは子供と老人が大多数を占めるが故に、あまり労働力にならない。だからこそ、彼らは保護を必要とするし、彼らを保護する者は極端に少ないのだ。
必要なものを得られないストレスは次第に精神を蝕んで行き、人から余裕を奪って行く。そして切迫した心は、人に思わぬ選択をさせる。
「本当に、どうすれば……」
一見大丈夫な風を装っていても、内心は磨耗し切っているものだ。リカルドも、それの例外では無い。立場上、他の人に気を配っていく必要のある彼は、寧ろ誰よりも磨耗の具合は酷いだろう。
リカルドはため息をつく。
何も考えられない。
僕たちは生き延びられるだろうか。
しかし、それだけは誰にも答えられない疑問で。
「『絶望的な状況で、考えるのを止めようとした時にはよく、思いもよらない希望が足元に転がっている』」
スパイラルに陥った思考は、外部からの刺激が無いと脱出できなくなる。その先にある終着点が完全な思考停止、一種の諦めだ。
リカルドの頭の上に何か固いものが置かれる。
「『何も諦めるなとは言わないが、せめて目を開けてその辺でも眺めてみろ。意外とどうにかなる』ーーおとうさんが言ってたの」
「イスカちゃん」
父からの受け売りの言葉を呟きながらリカルドの背後に立ったのは、避難民の中で最も幼い少女イスカだった。
「他の子と一緒にいなくても良いのか?」
「おじさんが、なんだか考えすぎてるみたいだったから」
リカルドは苦笑した。
まだ22歳だが、なるほどイスカから見ればおじさんなのか、と。当然そんな理由では無く。
ある意味では呆れたのかも知れない。この少女の洞察は、余りに正鵠を射ていた。
イスカがリカルドの隣に腰掛ける。
「さっき、ちょっとお散歩してたの」
「そうか。何かあったのか?」
「うん」
リカルドの問いに答えるとイスカは、手に持っていた、おそらくはさっきまでリカルドの頭に当たっていた物を差し出す。
「これは、ビスケット缶? こんな物、どこで……」
脳内に疑問符を浮かべながら、イスカを向く。よく見ると、全身がうっすらと汚れ、手のひらの皮が破れている事が分かった。
「お散歩してる時に、拾った」
嘘。
良くも悪くも偽りを知らず、正直者であるのが当たり前な年頃の筈のイスカは、直ぐに分かるような嘘を吐いていた。否、直ぐに分かるように、だろうか。
分からない。
だが確実に、イスカはこのビスケット缶に限らず、何らかの物資を探すために動いていた。散歩と言う建前を使って。
この子は今、何を考えている?
不思議そうな表情をして、上目遣いでこちらを見るイスカを見ながら、リカルドはそんな事を考える。
リカルドの想像など及びもしない事なのか、それとも誰にでも思いつくような事なのか。
それも結局、本人にしか分からないのだという事に気付いて、言いようの無い無力感に襲われる。
それを見かねたのかは知らない。イスカがリカルドの服の端を軽く引っ張った。リカルドはそれに反応する。
「お泊まりできそうなとこ、見つけたんだ」
そして、このイスカの一言に驚愕する。