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王都陥落

 廊下に蹄の音が響き、見慣れた顔が駆け込んでくる。


「失礼します、中尉」


 ケイル軍曹がこちらを見て、おやという顔になった。

 彼は気にせず、手にしていた地図を机の上に広げる。席を外そうと立ちかけたが、中尉は手振りで“そのまま(ステイ)”と告げる。

 ぼくは犬か。


「帝国軍が王都を落としました」


「ふむ、思ったより掛かったな。帝国の残存兵力は」


「王国に入った軍勢は、すでに総数でも二千を切っています。王都に駐留できるのは、最大で三百というところでしょう。増援がなければ、ですが」


「本国は動かんさ。国内が安泰なら出兵などしない。こちらに向かってくる可能性は低いな。下手に動けば“星”に食われる」


「徴発が始まっているようですが、凶作が続いた王国民に供出できる物資があるとも思えません」


「こちらも国境から動くな。阻止線には重装歩兵と弓兵だけでいい。軽歩兵と騎兵は遠征に備えさせて待機。問題は?」


「兵と兵站にはありませんが、率いる者が足りません。特に、中隊以上の指揮官が皆無です」


「他人事みたいにいうな。貴様が仕官への昇進を蹴ったからだろうが」


「自分は、将校の器ではありません」


「それをいうなら、わたしだってそうだ。ただでさえ獣人連合(うち)は佐官・将官が名誉職(おかざり)なんだ。諦めてさっさと神輿に乗れ。いかに武勇を誇ったところで、単騎で戦は動かんのだぞ?」


 中尉は、共和国の宣撫官と同じことをいう。軍人というのは、どこも同じなのかもしれない。

 中尉のため息とともに話は終わったようで、軍曹はぼくに向き直る。


「バーバ・シニチロ。わずかな間に、えらく雰囲気が変わったな」


「お久しぶりです、ケイル軍曹」


 といってもまだ、一週間と経っていない。

 いまのぼくには、ひどく昔のことに思えるが。


「修羅場は兵を育てる、というのは本当だな。“龍の森”で拾ったんだが、いまでは立派な凶状持ちだ」


 中尉は地図を指で示す。

 ぼくがドラゴンと出会った龍の森は、色分けされた王国領の南端近く。獣人連合統治領の北端から――そして、王国や共和国との国境からも――馬で小一時間ほどのところだ。

 何をやらかしたのか知らないが、手負いの龍が逃げ込むには、国境線に近過ぎたようだ。


「まさか、龍を殺そうとしてた、なんていうんじゃないでしょうね」


「もっと悪い。こいつは龍に乗っかろう(・・・・・)としてる」


 ぼくを見た軍曹は、不思議な生き物でも眺めるような顔になる。


「ちょ、中尉!? 人聞きの悪いことをいわないでください、ぼくは彼女を守ろうとしているだけです!」


「どこをどうやったのか知らないが、“龍の加護”を受けたんだそうだ。のこのこ龍退治に来た帝国軍の甲冑付き(・・・・)を全滅させてる」


 半分は共和国軍によるものだと反論したが、聞き流された。

 あげく、使った武器が青銅刀とウサギの弓(あと投げたことはない投げナイフ)だといったら本気で呆れられた。

 ふつうは跳ね返されて終わるのだそうだ。


「ところで軍曹、さっきのバーバとかいうのは何だ」


 ケイル軍曹が怪訝そうな顔でぼくらを見る。


「彼の名ですが、まだ聞いていなかったんですか? ……尋問、されてたんですよね?」


「わたしは訊かれなかったからな」


 中尉はムスッとした顔でそっぽを向く。

 わからん。何で、そこで中尉の話になるのだ。


「心を許したら名乗りあうのがお前の流儀だと聞いた。ずいぶん歩み寄れたと思っていたんだが、まだ足りんか」


 え、なにそれ可愛い。

 ケイル軍曹が咎めるような促すような微妙な表情でこちらを見る。


「失礼しました、中尉殿。気が回りませんでした。ぼくは馬場真一郎。どうか“シン”とお呼びください」


「……ファナ・マイアーだ。別に、覚える必要はないぞ」


 ――まずい、へそ曲げた。

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