伊豆
あれは美景じゃったな。
隣におるのは彼氏か……?
あいつ彼氏がおるのにわしのところに来てたのか……。
花嫁に美景を、と思っていたが彼氏がいるのなら考え直さないといけんのぉ。
さて、美景が花嫁になれない場合のことを考えて次の花嫁を探さなければな。
ガチャ
「今、帰ったぞ~」
「おかえりなさい、伊豆」
「!?!?!? 美景、なぜここに……?」
なぜか美景がわしの部屋にいた。
さっき見たのは幻か……?
「なぜって遊びに来たんだけど、ダメだった?」
恐る恐るという感じに美景は答えた。
「い、いや、たダメじゃない。だが、さっき美景とおぼしき子を見たのじゃが……」
と言ってみると、ちょっと思い出すように右斜め上を眺めて、思い至ったのか「ああ、さっきか。学校帰りだったのかな?」と答え、急に顔を真っ赤にした。
「も、もしかして私が二人でいるとこ見た……?」
と恥ずかしそうに聞いてくる。
ちくん、となぜか胸が痛む。
ああ、痛い。あれは本当に美景の彼氏じゃったのか。こんなに赤く頬を染めて。恥ずかしがって。
「ああ、見たぞ。仲がよさそうに歩いて帰ってたな」
「仲よくなんて……。隼人は幼馴染みだよ。」
「否定せんでもよいよい。若いんじゃから恋の一つでもせんとの。」
と笑いながら言ってみた。
「だから!!隼人は幼馴染みなんだって!!!」
と美景はなぜか少し怒っている。
「そんなにムキにならんでもよかろ?恋なんて恥ずかしいことじゃないぞ?人生のスパイスじゃ。あっはっはっ」と言うと、更に美景は怒ったようで
ドンっ
「もういい!違うって言ってるじゃん!!今日はもう帰る!!」
と美景は走って部屋を出ていってしまった。
「あー……。からかいすぎたかの……。」
と呟きながら部屋のソファーに座った。
と、そこへ
スッ
「伊豆さま。美景様の大きい声が聞こえたのですが……。」
と柚子がやって来た。
「ああ、少しからかいすぎたみたいで走って帰っていったわ。柚子、追いかけるか?」
と聞くと、柚子は少し怒ったようだが首を横へふり
「僕の主は伊豆さまなので。」と言い、襖をしめ出ていった。
自分の生きている音と時計の音しかしない。
いつもこの時間には、美景と柚子の楽しそうな声と笑い声がしているのに。
世界で一人になってしまったみたいじゃ。
神様なのに、一人ぼっちか……。と自嘲ぎみに笑い、明日もし美景がここへ来たら謝ろうと決心し、瞳を閉じた。