出会い
ぽつぽつ……さぁぁぁーと雨が降りだした。
太陽は元気に光を放っている、だが水がこぼれ落ちてきた。まるで、空が笑いながら泣いているみたいだ。
そういえば、こういうのを天気雨というんだと私は思い出した。そして、こういう日は狐が嫁入りするのだと……。
時は同じくて神社の社の中では耳が生えていてもふもふしている生物、狐が何匹もバタバタ動いていた。みんな忙しそうだ。
だが、四足歩行で歩いている者もいれば、幼い人間の姿に耳としっぽが生えている者もいる。
「コンコン、ああ、忙しい忙しい。主様はまだ準備できていなのかコン」一番派手に着飾って言う狐がそう言った。この狐は美しい金色の髪を束ねている人の姿だ。
「もう少しで準備が終わるみたいですコン」と下働き風の狐が言った。それを聞いた派手な狐は満足そうに頷くと
「あとは花嫁を迎えるだけだコン」と言った。
あーあ、家に帰りたくないなぁと私こと美景は雨に濡れながら道に転がっている石を蹴りながら歩いていた。家で待ってる家族なんていないし。
お母さんとお父さんはきっと今日も帰るのが遅いか会社に泊まりだ。私のために働いてくれていることは知っているけど少し寂しい。
そんなことを思いながら歩いていると自分の右手に神社が見えた。気味が少し悪いが雨宿りがてら寄ることにした。
鳥居をくぐると薄暗かった。たが、鳥居をくぐった先は狐の置物がずらっと並んでいた。
「稲荷神社……?」
1人なんとはなしに呟いた。
すると「人間のおなごの客とは珍しい」
という声が聞こえビックリして声のした方を見てみた。声の主は狐の像が並ぶ先にある社の屋根の上にいた。
「最近はお客もめっきり減ったからのう」
という声。金色の長髪に黄色の耳。そして後ろにはもふもふのしっぽまでついてある。たぶん性別は男だ。たぶん。長髪だし顔は整っているしで女性にも見える。
「あ…あの、そこにいたら危ないですよ……?」
やっと声が出せたと思ったらそんな質問を口にしていた。
ぶはっと吹き出す声がした。耳を生やした男性とおぼしき人が笑ったのだ。なんで笑ったんだろう。
「わしを見て第一声がそれか。ふっ はははっ。面白いやつじゃの。お前名前は?」
「美景ですけど……」なんで笑われたかはわからないけど、とりあえず聞かれたことには答えた。耳の生えた男性は少し考えたあと
「わしは、伊豆だ。ここの主じゃ。だからここにいても危なくない。」
……は?この稲荷神社の主ってことは神主様ってこと?それとも狐の神様?ていうか、主だから危なくないってことが意味わかんない。というのが声に出ていたんだろう。
伊豆は
「神主じゃなくて神様の方じゃ。ちなに、ど、く、し、ん。花嫁募集中」
などといらない情報までも加えて答えた。
そんな情報いらないし耳あるし神様だとか言うし危ないから早く去ろうと思って回れ右して帰ろうとした。
すると、「ちょいちょい、止まれ、美景。少し寄っていかんか。そして花嫁になってくれんか。お前みたいな面白いやつらはあいつらが準備したやつらよりか良い。」
そんな言葉が聞こえてきたけど聞こえないふりをして歩き出した。だが、ストッという音とともに伊豆が目の前に立っていた。目が出るほど驚いて声もでない。
「はい、行くぞー。」
と言う言葉とともに私はずるずる引っ張られていった。
「えええええええええええ」
私の悲痛な声はきっと誰にも聞こえてない。
社に入ると世界が変わったように綺麗な場所だった。
「すごぉーい」
無意識に言葉が口から出ていた。そうだろそうだろと言うように隣の伊豆は腕を組み少し体をのけぞらしている。部屋には大きなベッドにソファ。
だが、床はフローリングではなく畳の上にカーペットを敷いているようだ。和なのか洋なのか微妙なところだ。
「ここはわしの部屋だ。ゆっくりしていけ。」
と伊豆は言い手をパンっとならした。すると、小さな男の子がふすまを開けて現れた。頭には耳。そして後ろにはしっぽが見える。巫女服と似たようなものを着ている。
「お帰りですか、伊豆様。出雲様が主様はこんな忙しいときにどこへ言ったんだとぼやいてらしてましたよ。」
伊豆は
「ああ。」
とだけ返事し、
「悪いが、柚子、なにか飲み物とおやつを持ってきてくれないか」
と言った。かしこまりました、と柚子は部屋を出た。
「ねえ、伊豆様って呼ばれてたよね?私もそう呼んだほうがいい?」
とふと聞くと伊豆は首を振りながら
「美景にまで様付けで呼ばれると心が休まらない」
と疲れた表情をしながら言った。神社の主も大変なんだなと思っていたら、再びふすまがスッと開かれ
「失礼します」と言いながら柚子という男の子が部屋に入ってきた手には形が綺麗な和菓子とお茶が乗っているおぼんを持っている。
それをテーブルに置き、私の方を見つめてきた。
あ、これ挨拶したほうがいいのかなと思って伊豆の方を見ると伊豆はもうお菓子の方へ歩いている。
助けを呼ぶ目線にも気づかず、どのお菓子を食べようか悩んでいるようだ。
もう頼りになんない、と思い頬を膨らませたけど、男の子がこちらを見ていたから急いで笑顔をつくり
「え、えっと……。あ、私は美景って言います。お菓子とお茶ありがとうございます。おいしくいただきます。」
こんなのでいいのかなと思いながら言ってみた。
柚子はコクンと頷き
「僕の名前は柚子です。どうぞ柚子って呼んでください、花嫁様」
と言った。
…………ん?ええええええええ!なんかおかしくない?最後花嫁様って言ってたよね?聞き間違いかな……?
「ね、ねぇ、柚子?最後さ、もしかして花嫁様とか言った……?」
「はい、もしかしなくても言いましたよ、花嫁様」
こてんと可愛く首をかしげ
「では僕はこれで失礼します。」
と言い柚子は部屋を出ていった。
どういうこと!?花嫁ってどういうことなの!!
伊豆に言いたいことは山ほどあった。だけど上手く言葉がまとまらず、やっと言えたのは
「柚子って可愛いね」だけだ。
でも、伊豆はそれだけで私の言いたいことは分かってくれたみたいで
「あぁ、可愛いな。花嫁はあいつらが勘違いしているだけじゃ。わしはそろそろ花嫁を連れてこんといけくての。そんなときに現れたのがお主じゃったから柚子は勘違いをしたみたいじゃな。」
淡々と言う伊豆。
そして、
「まぁ、菓子を食って茶を飲め。」
と言い、自分の隣をポンポンと叩いてくる。納得できなかったけど、ポンポンと、隣を叩かれては座らなくちゃいけないじゃないかと思い大人しく座りお菓子とお茶を頂いた。
「じゃあ、そろそろ帰るね。」
「そうか、また明日も来てくれるか?最近はなかなか訪れる人がおらんで寂しくての。こんな暇なじじいを構っておくれ。」
と伊豆は言い、伊豆が自分のことをじじいって言うのが面白くてししょうがないなぁ。また明日も来てあげる」と言って入ってきた扉を開き外へ出た。
外はもう夕暮れが去り、夜の闇が訪れようとしていた。