その少女は 宵闇の森に舞う
ティークの露店街を離れ 人の気配と真逆に歩を進める事で
いとも簡単に到着する「妖精の森」
その霧深く立ち込める森に、ポツンと取り残された大豪邸「シュランリベール邸」
濃霧に視界を遮られるため風乗りを諦め
徒歩で森を行くマインであったが、さすがに夜も更け
旅の疲れも隠せなくなってきた為、手頃な場所を見繕い
風を操り、安全地帯を確保する魔法「風の衣嚢」の効果で
風のバリアを周囲に発生させ、仮眠を取ることにした。
「キィィィィィィィィィ」
草木も眠ると言われる丑三つ刻
その闇と霧とが織り成す静寂の調和を、謎の奇声が劈いた事で
マインは眠りから目覚めた。
『なんだぁ?』
突然の喧騒に 何が起こったのか戸惑うマインを余所に
森のざわめきは一層 けたたましさを増す。
『あの鳴き声は・・・・ゴブリンバットかも知れねぇな・・・』
「ゴブリンバット」
夜の森を徘徊する巨大コウモリで
牛1頭をそのまま丸呑みしてしまう獰猛な生物。
寝起き眼ながら、遠方で起きている異変の正体を探ろうと
耳を澄ませ、情報を集めるマイン。
よく耳を澄ませて聴いてみると、どうやら少し離れた場所で
何者かがゴブリンバットと交戦している気配が感じ取れた為
近くまで様子を見に行ってみることにした。
『キィイィ』
うっそうと茂る木々の間から聴こえる「ゴブリンバット」の鳴き声
それは近くで聴けば聴くほどに 超音波的な衝撃を感じさせるもので
いかに「鳴き声の主」が、巨躯の持ち主であるかが窺い知れた。
『マ・・・マジかよ』
木々をなぎ倒しながら 何者かと交戦する「ゴブリンバット」の姿を確認し
驚きを隠せないマイン。
羽ばたきの衝撃で 木の葉が揺れ落ち 周囲を砂埃で覆う
巨大で力強い怪物
その怪物級に巨大なサイズのコウモリに相対する者の姿
それが幼さの残る女の子だったこと
そして、その少女の軽やかで魅惑的に舞う姿
その舞いの効力なのか 不思議な力に圧倒されてゆく怪物。
自身の視界の先で、あまりに予想外な光景が広がる現実に
マインの思考は 一時的な硬直を余儀なくされるのだった。