そんな理由に ツッコミを・・・
風板と呼ばれる「風」を操って足場にする
マインの故郷では、一般的な移動手段「風乗り」
空馬車ほどの高度は出ないが、ハンターウルフの速力さえ捉える。
およそ300Km四方にもおよぶアレンキアの大平原を行くには
大陸鉄道 を使うか
空馬車や風乗りでの移動が基本となるわけだが
周囲をグルリ見渡せば、猿オマージュのコスプレ男が疾走する。
『・・・・ん?』
優しい風に波打つ 地平の彼方まで広がる緑の海
幻想的な生き物が当たり前に暮らす光景を眺めつつ
平原の向こう側にある町「ティーク」を目指していたマインの目に
その光景が飛び込んできた事で「情報屋のジル」は救われた。
彼曰く
ここアレンキア平原にしか生息しないという
ゲル状の植物系モンスター「プラントゼリー」
そのモンスターが分泌するゼリー状の液体は
薬液としての利用価値が高いらしく
フィルビスとルーメルを探しながら
その液体も入手できれば おいしいな、などと考え
こういう姿になった、ということなのだが
たまたま探索のつもりで入った洞穴が
ハンターウルフの巣だったらしく
4頭のハンターウルフから追いかけられるハメになったらしく
手持ちの「神力石」という
即席で魔法が発動できる石を使って
ウルフを眠らせたり、砂嵐を巻き上げて視界を妨げたり
あの手この手で3頭までは、どうにかできたものの
最後の1頭を残したところで妨害系の石が無くなってしまい
自分の速力を上げる石を使い続けて
なんとか凌いでいたものの、追跡をかわせるには至らず
万策尽きかけたところをマインに救われた、との事だった。
※ ※ ※
『いやー、ホント助かりましたぁぁぁぁ!』
汗と涙と鼻水でグズグズになりながら
ジルはマインの手を取り感謝の言葉を熱く伝えていた。
見れば猿メイクも崩壊し
それに握手された手は、なんだかネバネバして気持ちが悪い。
せっかく出会えた「死の呪いの関係者」ではあったが
正直、ジルと一緒に 人前に出るのは辛い・・・
と、いうわけで
マインは さっさと風乗りで
その場を離れようとしたのだが
どうしても聞いておきたいことがあり
最後に ひとつだけジルに質問してみることにした。
『なぁ・・・なんでプラントゼリーを探すのに
猿のコスプレしなきゃダメだったんだ?』
マインの、どストレートな質問。その問いにジルは ハッキリと言い放った
『だって、猿のほうがマネしやすいし プラントゼリーも食べそうでしょ?』
ブゥゥゥゥゥゥ・・・・・
質問の答えを聞き取った瞬間、マインは風乗りを再開し
その場を後にした。
遠く離れていくマインの背中に向け
ジルが何か叫んでいるが マインが振り向くことはなかった。
・・・『食うわけねーじゃん』そんな心の中のツッコみだけが
マインの頭の片隅に 静かに浮かんで そして、すぐ消えた。