奴隷のように働け!!
「ダユ様! 奴隷が逃亡しました!」
「捕まえろ! そして兄様に皆の前で鞭打ちさせるのだ!」
やぁこんにちは。俺は奴隷監督官だ。
なんの因果か一族揃って奴隷を扱う商売をやっている。
ちょっと頭が弱くて気の優しい兄貴はこの仕事の跡継ぎには合わないと三男の俺に跡継ぎのお鉢が回ってきたって寸法さ。とほほ。
まぁまともによその家基準で考えれば三男以降は家を追い出されても仕方ないのでこれはコレで満足しているのだが。
おっと。その間に次のアニキが逃亡奴隷を無事確保したらしい。大事なくてよかったぜ。
「捕まえました」
「おし。鞭打ちの後は焼き鏝の刑だ」
残忍な拷問役のアニキたちは嫌そうな顔を俺にだけ見せる。
「俺、この仕事辞めたい」
「あにきは奴隷に対しても優しいからな」
下のアニキが笑う。
「おいおい。しっかりしてくれよ。長男。アニキがいなかったらこの家業は出来ないよ」
残忍な追撃役と恐れられる次のアニキだが可能な限り彼は生捕るし、なるべく怪我をしないように計らってくれる。
「多分、適任だから親父は二人に今の仕事を任せたのだろうな」
だって上のアニキは苛めすぎたりしないし、下のアニキは逃げた奴隷を安全かつ迅速に確保するのだから。
ああ。俺が後継者に選ばれた理由は『相手を見る目があるから』だって親父が言っていたな。
なんでもこの家業、長男だからとか言う優しい理由じゃ継げない。実力第一適材適所だという話だ。
俺たちは管理だけではなく売買も少々手掛ける。
本日やってきた奴隷売りは専門業者じゃなくて流れ者のワル。その場限りの悪行をやって糊口をしのぐ輩だがこういう奴はいろいろ頼りになることもある。厄介ごとも持ちこむが。
「おい。ダユ。この奴隷買い取ってくれよ」
なんだい。まだガキじゃねえか。
小娘はガリガリであっちの用途じゃ全然ダメだし、餓鬼は病気だし。
「何処で浚ってきたんだ。こんなのうっちゃっておけよ」
「でもダユなら買い取ってくれるだろ」
ああ。もうかったるい。
子供で出来る仕事は限られている。病気の面倒は上のアニキの弟が回復魔法を使えるからそっちで何とかしてもらおう。
あ。お前らには意味不明だろうが俺たちは厳密な父母が違ったりするからな。こういうことは結構ある。商品に手を付けるなんて俺たちから見ても外道のすることだと思うがどうにも一族に成りそびれたバカにはそういう輩がいて恥ずかしい限りだ。しかし有能ならば血のつながりが無くても兄弟にする。
「じゃ、子供に出来る簡単な仕事をやってもらう。って……こいつまさか貴族のガキじゃないだろうな」
ガキどもの面をよく見ずとも何処となく気品があるのがわかる。
誰も買い取らないわけだ。
と、なると待遇を他の奴隷に気取られない程度には良くして、なおかつこいつらにある程度好かれないといけねえのか。貴族様の逆ギレは怖い。
そうこう思案していると何を指図されているのか否定にかかるガキどもにうんざりだ。
「違う」
「違います」
一応俺は嘘が解るつもりなんだが。
まぁ良い。
このままこのガキどもをほっておくと本気でコイツはこの二人のガキを其処らに捨てるだろうしなあ。
「よし。お前らに仕事を教える。仕事が出来ない奴には飯は無いのがこの世の習わしだと教えてやる」
ああ。また厄介事が増えてしまった。
奴隷監督なんて鞭打って適当にけしかけておけって言うかもしれないが、この辺の環境は『オンダンシツジュンキコウ』っていうらしく始終変化して、そういう単純労働を許さないんだな。
あと、補充補充で奴隷どもを使い捨てなどやっていれば折角教えた仕事が一から教え直しになるし。
こういった教育は奴隷頭達にある程度任せているが、新人苛めが無いかとかの見張りも万全にやらないと反乱を起こされてしまう。特に食い物の分配はしっかり口に入れて飲み込むまで見届けないとダメだ。
奴隷頭クラスになるとやはり経験や勘は俺たちも一目置く奴らが少なからずあるしな。
あと、女は犯させない。男は喧嘩させない。
技術系や計算の能力を持つ奴隷は少し待遇を変える。
何の能力も無くても歌や踊りや人をまとめる事が出来る奴はそれなりの待遇にする等々この仕事は物凄く大変なわけで、一族総出のチームワークが重視されるわけだ。
そんなある日。
中央のほうから『奴隷は全て解放し、自由民として給料を払うこと』と言うお触れが回ってきた。
願ったりかなったりである。俺、本当は中央で絵描きをやりたかったんだよな!
『俺、奴隷商売辞める。兄貴達もやめようぜ!!』
家業はどうしたかって? まぁ親父たちも歳だし好きにやれってさ。
肝心の兄貴たちにお願いすると、意外にもみんな喜んで同意してくれた。
『今どき奴隷家業なんてないって思っていたからな!』
『ダユ! 絵描きになってもしっかりやれよ!』
上の兄貴は身寄りのない子供たちを立派に育てるコジインとやらをやりたいと言うので資金を沢山出した。
下のアニキは上のアニキについていって収入の無いボケ老人を使ってコジインの手伝いをやらせる案を出して一緒に行くと言っている。
兄貴の弟は中央で医者をやりたいそうだ。留学資金を捻出してやらないとな! ああ忙しい。本当に楽しくなってきた。こんなに仕事が楽しいなんて何年ぶりだろうか。
そんな諸手続きをしていたある日、なぜか奴隷どもがやってきて平伏。どうしたのだろうか。
「ダユ様! お願いがあります!」
なんだ? 農園はうっぱらうつもりだぜ。
最後の給料はやっただろ。
そんな俺たちに奴らはトンデモないことを言ってきた。
「どう考えてもダユ様より待遇の良い雇い主はいません。なので中央に行くのは辞めてください」
あの。俺はこれ以上お前らに給料払うの嫌なんだけど。
「なら、給料以上に働きます! 健康管理も自分たちでやります! 苛めや女の子への悪さもしません! だから農園を売らないでください!」
あの……。
「お願いします。ダユさま!」
「農場主様!」
「一族の皆様もやめないで!」
「おいちゃん、あとでこっそり薬くれた」
「次兄さまもです! 着の身着のままの仲間が河に落ち、死ぬのを黙って見逃そうとした私たちを尻目に駆けだし、身を挺して助けてくださった!」
「医者の兄上殿も中央に行くと言わないでください! こう見えてもわたくし、実は中央で相応の地位に」
な、なんだって??!!
こうして。
俺の一族の農園は歴代最高の利益を叩き出し、やがて皆の力で開拓が進んだ我が領地は後に王国最高の街へと発展を遂げたらしい。
しがない辺境の農場経営主だった一族も、今や辺境伯を超えて今度王族と婚姻を結ぶんだとよ。
俺たち三兄弟は後に神格化されて上の兄貴は国家防衛の守護神。中の兄貴は狩猟と農業の神。俺は商業神。兄貴の弟は医療と回復魔法の神様になって今でも信仰されているんだとさ。
どうしてこーなった。
どうしてこーなった。誰か説明してくれ。
※『山椒大夫』でも奴隷解放した山椒大夫一族は前より利益を上げることに成功している。




