全裸で全力疾走すると世界が変わっていく能力
俺は逝く。俺は夢を見る。俺の為。
俺は走る。俺は走り続ける。世界の為。
喉から洩れるのは荒い吐息。
唾液が固まったかのような不愉快感。
腕も脚も重く。筋肉痛を超えて岩のようになっている。
鼻にはどこかツンとした香り。耳には今なお消えぬ嘲笑の声。
それでも。
俺は逝く。俺は夢を見る。俺の為。
俺は走る。俺は走り続ける。世界の為。
俺は走る。全裸である。
何故こうなった。簡潔に説明する。
俺には全裸で全力疾走すると周囲が変わっていく能力がある。現在走っている処はウクライナにある有名な原子力発電所跡地だ。
勿論本来人間など住んでいない筈なのだが。
俺の股間が走ると共にぶーらぶら。俺の手足もふーらふら。その様子を見て失笑するババアはばーばばーば。
「おい。ヤポーネ。ちいせえちいせえ。もっと背を張れ」
無駄なアドバイスをするジーさん。この界隈では珍しい。
俺が踏みしめた足跡にはたちまち花が咲き、爽やかな風が吹き、何処からか鳥たちの声が聞こえだす。
何ともいえない甘い香り。ウォットカを爺さんに貰って舌が焼けそうになる。
俺は体力の限界に達して絶頂全裸でぶっ倒れた。
スリーマイル。ビキニ。ウクライナに残存する放射能を除去するのに実に三年の月日を使った。
次は俺の故郷。フクシマである。
しかし世界は残酷だった。
『じゃ、歩いて行ってくれ』
俺が走った後は石油が出たりメタンハイグレードが出たりと色々ある。
その走るルートすら各国の思惑が絡み、俺の行きたいフクシマに行けない。
俺は一刻も早く故郷を元に戻したいのに!
事情を知らない警察に追われたり、拘束され、異端者として凶信者に殺されそうになったり、すぐ脱ぐことで有名な変なネーちゃんばかりの抗議団体の人に仲間に思われたり、その関連で美人だが脱ぎ癖のある今の彼女と知り合ったりしたが。
俺は疲労困憊した身体を横たえて思う。
俺はただ。みんなが昔通り走って、仕事して、遊んで、家に毎日帰ってゲームして寝てご飯を食べる日常が欲しかったのに。
どうして異国にてこうして変態みたいに全裸で走っていなければならないんだろう。
「やぁ魔法青年。ちょっといいか」
ビヤ樽みたいな身体を揺らし、気のよさそうなおばちゃんが横にひょいっと座る。
「君のお蔭で助かった。ありがとう」
「どうも」
この仕事をしていると変態にしか見えないので礼なんて言われたことが無い。
「でも寂しいね。見てごらん」
「ん」
俺の隣を無警戒に歩く鹿。のんきに歌う鳥。甘い香りを放つ花。
「この景色がなくなると思うとね」
そう穏やかにほほ笑む婆さん。
その婆さんのビヤ樽な身体も徐々に若く、美しい女のそれになっていく。
「若返るのは嬉しいよ。故郷が元通りになるのも。
仕事があって、家があって、皆がいて。
そんな日々が戻ってくるのは凄く嬉しいのに」
長身でおっぱいぼいんぼいんのお姉さんになった婆さんは悲しげに笑う。
「不思議だね。放射能まみれのいつもの故郷が懐かしい」
鹿たちが逃げていく。この近辺は有望な土地に生まれ変わるだろう。
「おい。ヤポーネ。一杯やろうぜ」
「良いけど服着せてくれよ! この辺寒いよ!!」
「ヤポーネなら『コンジョー』だ! さぁのめのめ!」
俺は帰る。いつしか故郷へ。
その時は間違っても警察に通報するのは簡便な!!




