『お前が自販機に珈琲を買いに行けば世界が滅ぶ』
「まてえぇぃぃっ?!!」
唐突に赤い羽根を持つ不思議な女が俺の胸元に飛び込んできた。おかげで俺は女の平たいおっぱいに潰されて死にそうだ。もう少し豊満なら痛くなかっただろう。
背が高くて美形。貧乳。
どちらかというとキリリとしたモデル系の美女だ。
「お前今一瞬自販機に行こうと思っただろう」うん。珈「考えるな?!」
女はいきなりその肌を晒す。
一瞬俺の思考は女の胸の中央のピンク色に染まった。
「あ、あんたなにも」
「そうだ! そのまま私だけを見ろ!!」
意味不明。
今更のように白い衣服を寄せて恥じらいの表情を見せる女に俺の股間とハートはフルマックスドリーム状態である。
「緊急避難的に此奴の頭を支配しそうな行動を取ってしまった。あらかじめこやつの人生経験をダウンロードしておいて良かった」
は、はぁ。よくわかりませんが珈琲でも如何?
「いや、だから珈琲の事は考えるな」
恥じらいをかねてなのかあるいは先ほどの自らの痴態を忘れたいのか。耳まで真っ赤で迫る女。
要らないのですか。俺珈琲を淹れるの、得意ですよ。
「いる」
女は思ったより素直だった。仲良くなれそうだ。
「うん。美味いな」
「喫茶店をやろうかと思っていたことがありまして」
熱湯で器具やポットをいったん温めて、また沸かす。
湯気たっぷりのポットで一旦蒸しながらゆっくり轢きたての珈琲を。
「人間ごときに肌を晒してしまった。なんでこんな行為をしてしまったのだろう」
ははは。素敵な赤い羽根じゃないですか。って。くっついてる?!
「触るな。敏感なのだ」
は、はい。というか鼻が開いてめっちゃ怒っているよ。この人。
「そりゃそうと俺何を」
「考えるな」
は、はぁ。
ぼーっと縁側で赤い翼の女と一緒に珈琲をのむ。
膝の上に猫が刷り寄ってきて「にゃあ」と鳴いた。
珈琲の残り香を愉しみつつ空を眺める。
猫はいつしか女の膝の上ですやすや。
「珈琲を淹れるのが面倒だから自販機に行こうと思ったのに」
「それは辞めてほしい」
簡潔に言おう。
女いうところ、彼女は天使であり、俺と結婚するために天界からやってきたらしい。
「なぜにホぅわぁイ?! どうして?!」
「お前の趣味嗜好、能力、人格や年齢。その他さまざまな要因から私しか該当者がいなかったからだ。
私だって嫌だ。もっとカッコよくて複数世界を股にかけるような有能で賢くて優しくて素敵な神族と結婚したい」
言いたい放題ですね?! 天使様?!
ゆっくりと赤くなっていく空を眺めてぼーっとする俺たち。ちょっと冷えてきたな。どてらをとってこないと。よいしょ。
「そもそもこんなに美味しい珈琲が淹れられるのに何故外に出ようとした」
「買えば珈琲を挽く手間が省けますから。天使様? でしたっけ。ちょっと信じがたいですが」
彼女は先ほどの鼻息もかくや。超然とした表情で俺を見据えながら赤くて複数枚ある翼を直立状態で器用に下に風が行くように捻りつつはためかせている。
その下で気持ちよさそうな猫。暖房要らずらしい。
「考えるな。感じろ。どうだ。私は美しいか」
「とても好みですけど」
猫に対する態度と言い、見た目と言い、ローブから覗く貧乳具合と言い、まさにストライクであるが。
「おおし。良好な状態だな。そのまま首を私に捧げろ。そして死ね」
「ちょ?! 結婚って言いませんでしたっけ天使様?!」
喉元に突き付けられた真っ赤に燃える剣。これってCGじゃない?! あっちち?!
「結婚してやる。そして死ね」
「いやいや。子供は毎日作って一〇人位精が尽きるまで」
「却下する」
「なんでですかっ?!」
「私がキモイ。その嫌らしい視線に怖気が走った。前言は撤回する。地獄に送らず天国で更生させてやろう」
「おいっ?!!」
食ってかかる俺に、急に彼女はふと柔らかい表情。
スッゲー可愛い。おれに呆れているらしい。彼女。
この顔なら本当に結婚してもいいかも。でもその燃える剣はひっこめてください。
「そうだ。私の事だけを考えて死んでくれ」
「いやいやいや。なんでですか」
「この状況なら言っても問題はない。簡潔に言うと『お前が自販機に珈琲を買いに行けば世界が滅ぶ』」
「はい?!!」
「何ソレ」
わけわからない。え? 自販機? 珈琲? え?
「事実だ。お前はちょっとした手違いでそのような異能の力に目覚めた」
「はぃぃぃいいっっ???!」
「手違いってまさか」
「その通り」
確かに先日寝る前に。
「チートでファンタジーな能力で美少女に囲まれて (*´Д`) 慕い」
とかいって願掛けを近所の神社にして、消費税増税で余っていた十円玉をまとめて大量に。
その後神社から抜けて一発エロゲで抜いて、AVで抜いて、近所の若奥様を妄想して抜いて、ついでにネットサーフィンで抜いてから賢者になって近くの女子高生が小学校の頃からの可愛さと今の良い具合の身体を思い出して抜いて賢者どころか仙人になって力尽きてネタが。もとい寝たが。
「後半は思い出してほしくなかったな。おぞましいというか」
身震いしてみせる彼女。
そういえば最後に抜いたネタに似ているな。彼女。
「手違いっていうか、手の違いというか」
戸惑う俺に真剣な瞳を返す彼女。
「うむ。風呂には入れ。その手は汚いので私には触らないでほしい」
「ごめんなさい」
つまり、俺がそのようなことを考える暇が無いように派遣されたと聞くと「概ねその通りだ」との返答がかえってきた。
つまり、あんなことやそんなことを。俺好みの姿の彼女に好き放題。ごく。
「妄想することだけは不承不承だが許可しよう」
いや、やりましょうよ。
「貴様がそう考えてくれている限り世界は安泰だ」
「なるほど」
「お前の場合、何かボケーっとすると珈琲を挽くのも面倒になって外出して缶コーヒーを買おうとするという手間暇的にも財布的にも無駄な行動を取るからな」
ああ。理解できます。天使さんなんかが唐突に家に突っ込んで来たら普通の人はワケわからなくなって思考回路が麻痺してそれどころじゃなくなるだろうな。事実俺もそうなった。
「じゃ、そういうことだ。私はお前の監視についたからな」「はぁ」
俺の横でぱたぱたと跳ねる赤い翼にはもう慣れた。
『他の女と結婚しても私は祝福するぞ。我が純潔は守られるのだからな』
などと述べながら道行く異性についつい鼻の下を伸ばす俺に頬を膨らませる様子にも慣れた。
デスメタルを聴いて『ナニコレ。不遜だが面白いな』とはしゃぐ様子にもなれた。
何より。
「たまには缶珈琲も悪くない。ただひたすら甘いだけだがな」
「だろ。人の作った甘いだけの珈琲も美味しいよな」
ひなびた縁側で彼女が買ってきてくれた珈琲を啜る。
隣には猫。みゃと言う声。どてらを着ることができない彼女の翼が跳ね飛ばしたどてらをキャッチして羽織る。
「別に羽織れといったわけではないからな」
ツンと鼻先を逸らす彼女。耳の先が翼より赤いよ?
そう。俺の翼は彼女が羽織っている。




