転生トラックに投身したら全身動かなくなりました
表題のとおりだ。間違っても人生に絶望したからって道路に身を投げてはいけない。
当たり前だが死ぬほど痛かったし、今や体の感覚すらほとんどない。糞尿は垂れ流しで自分の糞の臭いを延々と嗅ぐことになる。看護婦ってそうそう来ないんだぜ。何処も人手が足りないんだとさ。
これ以上の絶望は無いとか思ったが、こう手足が動かず、本当に何も出来ず誰かに何かをやってもらうのをひたすら待つだけの日々の絶望を俺は知らなかったのだ。
何が転生チートだ。ふざけるな。馬鹿馬鹿しい妄想だ。
もし時間が巻きもどるなら俺は転生してからじゃなくてそのままの俺の人生をやり直すべきだったのだ。
まぁ。今だから解るんだ。自分の思い通りになるというのは理想であり絶望だ。
俺が今垂れ流しているウンコを看護婦がすぐに処理してくれることを俺は切に願っているがそれはすぐには無い。朝までは看護婦は来ないのだ。オムツ交換はそれだけ。もし暴れればわけのわからない薬をうち込まれて拘束されるだけ。笑えるだろう? 俺は笑う事すら出来ないんだぜ。
何でも思い通りに。か。
なんでも思い通りに出来た途端。今のオレは何も自分が誰にも出来ないことを思い知らされるんだ。
俺の思うとおりになるためには人に動いてもらう必要があるんだ。解らないだろ。解らないほうがいい。絶対に。
時々視線を彷徨わせる。
自分の糞の匂いが舌について食欲もわかない。ずれたシーツの汗の臭いにむせ、床ずれの痛みで涙がこぼれそうになる。
「なぁ」
たまに遊びに来る友人だが、俺は彼に言葉を返すことが出来ない。
「オマエ、ちょっと鳥に転生してみね?」
はぁ?
奴はよくわからない眼鏡だかタブレットのようなものを俺に無理やり装着した。ナニコレ。
タブレットの画面で目がちかちかする。耳のマイクからはヤツの足の音。映る映像はどうも奴さんの足元らしい。「視線あげてみ?」ぶぶっぶ。妙な音と共に視界があがっていく。なんだこれは。
「そこの手のマークを見てみろ」
そうそう。ヤツの言うままに手のマークを見るとそれが光って腕のようなものが伸びる。奴が手を伸ばし、その腕もどきと握手。
戸惑う俺の視線を察したのだろう。彼は満足そうに頷く。
「うん。ぶっつけ本番で作ってみたけど巧くいったな」
意味わかんねぇよ。
奴は鏡を取り出し、俺の見ている映像に見せる。俺の姿は……ヘリコプターみたいな機械だ。三つのプロペラが組み合わさった妙な品でぐらぐらぐらぐらする視界がひたすら不愉快なのは此奴の映像を俺が見て居るかららしい。
「コレで、勇者には転生出来ないけど鳥にはなれるぜ」
は。はぁ……。
奴は真剣な目で告げる。
「これって見かけによらず結構安い機械なんだぜ。リハビリ担当の人の許可も取っている」
俺はヤツの言うままに『ハイ』のキーを視線で押す。
「レースやろうぜ。レース。儲けはこの事業につぎ込む。人間は空を飛べないって言うけど、之なら『飛べる』だろ」
なんで俺がそんなレースをやらねばならないんだ? ふざけるなよ。
俺は奴に体当たりをしようとしたが、どうもモノにぶつかれないようにプログラムされているらしくそれは叶わず、ヤツの耳元で抗議のつもりでぶんぶん動くだけだった。勇者じゃなくて蠅と変わらん。もういっそ殺してくれ。
「みろよ」
奴は病院の窓を開ける。
青い空が広がっている。
眼下には両手を広げて車椅子を進める小児科の子供たち。
杖をついた老人たちが大きく手を振る先。空を横切る五つの飛行体。
ぶるぶると頼りなく揺れ、風を受けて浮かび上がり、微笑むように時々落ちたり飛び上がったりするそれは編隊を組んで空を舞う。
子供たちがはしゃぎ、ボールを投げると五つの飛行体は各々に繋がったヒモの先のネットで子供たちに正確に打ち返して見せた。
「お前も飛んでみようぜ」
奴が笑った。
俺は笑いたいが笑えない身の上なのは先ほども言った。
だが、誰かの微笑みを生み出す人には、またなることが出来るらしい。
俺は病室の窓から飛び出した。今度は落ちない。今度は死なない。
俺は翼を広げて鳥になる。
参考。
TED日本語 - ヘンリー・エヴァンズ&チャド・ジェンキンス: 人類のためのロボットを
http://digitalcast.jp/v/18992/




