カフェ&ルンバ♪
私の部屋は所謂『汚部屋』である。
彼は綺麗好きである。
私は珈琲が好きだが彼の愚痴は聞きたくない。さてどうするべきか。
(2ch文芸・書籍サロン@2ch掲示板の『小説家になろうの女性向け作品を語るスレ』>>703氏のワンアイデアより)
糸麦氏のクリスマス短編企画の一環で掲載。
「おい。この雑誌が邪魔だ。どけろ」
うっさい。
わたしは彼を蹴飛ばす。
ちなみに私は部屋の布団が敷いてあった場所から一歩も動いていない。
というか、寝転んだままだ。
「足の踏み場もないとはこういう状況を言うのだぞ。澄香」
うっさいぞ。この珈琲野郎。
珈琲一つ持ってきてくれない癖にいつもいつも偉そうなのだ。彼は。
とりえと言えば掃除だけというが、この散らかしきった部屋を掃除するために異物をどけろとうるさい。
「雑誌も邪魔だ。ゴミの日は覚えているか? 木曜日だ木曜日。朝に弱いなら御近所には少々迷惑だが水曜日の夜には出しておけ。ダンボールの中に雑誌だの一ページも書いていない家計簿だのつめるな。コンビニ弁当もだ。ゴキブリが湧いていたぞ」
なに? ゴキブリだと?
私が飛び起きると頭の上にたくさんの紙くずが落ちてきた。
頭上のゴミを払いのけると生ゴミの入った袋に手が当たって中身をぶちまけてしまった。ああああ。
もういい。寝る。
「うむ。寝ているお前の口から水分を」
うがあぁあ嗚呼ア嗚呼あぁぁっっ??!!
「ゴキブリが嫌いならとりあえずものを捨てろ。
カタズケロ。
あとは俺が掃除しておいてやるから」
だが。断る。
私が意地でも彼の言葉を聞かない姿勢を崩さないのを見て彼はため息。
「昔の男をいまだに振り切れない。まったく困った娘だ」
うっさい。初めてだったんだぞ。
痛かったし。優しかったし。
甘かったし。素敵で嬉しくて。
「その結果がこのゴミの山と、無職だ。親からの仕送りを止められたらどうするのだ」
死ぬ。死んでやる。
「いいか。珈琲には砂糖を入れるか入れないかで揉めるヤツはいる。砂糖は豚が食うものだというヤツもいる。しかし珈琲自体の旨みが損なわれるわけではない。苦味をごまかしはするがな」
わけわかんないこというなよ。マジムカつく。
私が彼を蹴り飛ばすと彼は姿勢を正して抗議の様子を見せる。
「お前だってそうだ。初めては大事かもしれんが、心を保ち続けるのは更に難しいのだぞ」
ホント、お前は説教臭くて嫌なやつだ。
ねぇ。アイツが最初に買ってくれたモノってさ。
「ああ」
あんたなんだけど。
ロボット掃除機さん。
「そうだな」
あんたを捨てて綺麗な新しい私になったほうがいいかな。
「そう思うぞ」
だったら、今のままでいい。
「愚かだな」
私の名前は昆野澄香。
珈琲を飲むとロボット掃除機の言っていることがわかる女。
長編版。関連作品はこちら。
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