フレンチトースト
すっと鼻に入るシナモンの香り。甘い卵の産みだす湯気がふわりとキッチンに漂い俺たちの喉を濡らしてくれる。
ざらっとした手触りのフランスパン。硬いそれに体重をかけて包丁をあてて切ろうとすると母が苦笑い。それじゃ怪我するわよと微笑む彼女。
妹がすっすっと手を引くと綺麗にフランスパンが切れていく。
「ほら。お兄ちゃんはさっさと御出汁に浸すの」
小柄な彼女のしたり顔。
鼻先で示された砂糖と卵、少しの塩の入った出汁にパンを浸し、硬いパンが柔らかくなるのを待つ。
麩の代わりに残りもののパンの耳を綺麗に削って入れたスープがぬくもるのを待って僕らの朝食は始まる。
父がラジオを入れると朝のニュースを固い声でアナウンサーが読み上げ、
新聞を開く彼を子供の前で行儀が悪いと母が窘める。うちのフレンチトーストはフランスパンで作る。そういう話を友人にすると普通食パンだろうと呆れられた。
でも美味しいんだよ。みんな知らないんだね。
黄色く染まったパンにちょっとした焦げの程よい苦味。フランスパンの耳を噛むのに苦労していると徐々に広がっていく唾液の甘み。噛み切れないと言って更に小さく切る妹の笑顔。「会社に遅れる」と慌てて飛び出る父におまけのフルーツを取り出して食べさせようとする母。
僕は今日もあのトーストを焼く。
新しい家族が生れる間、キミがいない間に腹が減ったと煩く騒ぐ小悪魔どもにこの味を覚えてもらうために。




