大人への道
だが男だ(きらーん)
水鏡澪は一人ラーメンを食べていた。
相棒の霧島はセンター試験対策で忙しい。
『まだ時間があるのに霧島は勤勉だな』と思うのは澪が甘いからである。
もう麹100%の甘酒並に甘い。
甘酒で旨みを出して複数の醤油を使った醤油麹ラーメンはこの店の親父の自慢である。
じゅるじゅると澪のピンク色の唇に白い粒交じりのスープを含んだ麺が吸い込まれていく。
彼の額から玉の汗が少し洩れ、首筋からの汗は大きく開いた学生服の下に着たタンプトップに。
「はい。卵追加」
親父が澪のラーメンに出汁漬けの茹で卵を投入。
驚いて振り返った澪の隣でサラリーマン風のイケメンが手を振っている。
「おごりだ」
澪は頭を軽く下げて微笑む。
「ありがとうございます。いただきます」
タンクトップの白い胸元についた汁を指で拭い、彼はラーメン屋を出る。
「君、暇かね」
「友人と映画に向かう途中です」
放課後は友人の水野と遊びに行く途中である。
「そうか。良ければお友達と一緒で良いからどこかに行かないかね」
「ごめんなさい。急いでいるので」
澪は自分がナンパされている事にも気づかず、その場を後にした。
水鏡澪。
皆が振り返るかわいらしい容姿。
だが男だ。
「おーい! 澪~!」
両手をぶんぶん降るのは同じクラスの水野諒。
一八〇センチを余裕で超える長身で化粧すれば相応の容姿になるがまだ高校生なのでたまにしかしない。教師に叱られるからだ。
普段の格好も地味なジャージ姿だし、男より女の子にモテる娘だ。だが女である。大事な事なので二回言いました。
「(ククク。今日はうっとおしいあの姉妹もいないし、今度こそ決めてやる)」
何を企んでいるのだ水野よ。一応澪は彼女持ちだが警戒心が薄い。
友人の好意を素直に受け止める性格である。
そして親切には素直に笑顔と礼で応える。すごくかわいい。でも男だ。
「(ふはははは。今日こそ俺の巨乳で澪タンを陥落させてみせる。映画館で触れ合う俺と澪タンの手。恐怖に震えるふりをして澪タンの手を取ってだな)」
高校生らしからぬ不埒なことを考える水野。
じゅるっと心の内で唾液を飲み込む。
「親戚のホテルも予約取っているんだぜ」
「はい?」
澪は鈍い。
水野の悪巧みに気づかず彼女にアイスを買ってあげる澪。
「暑いよな。水野」
そういってピンク色の舌が冷たいアイスを舐める。
白い光が反射し、清涼な香りと味が二人の喉を潤す。
160センチを少し超える(※ 二年生の時と比べて少し伸びた)澪と水野は少々目立つ組み合わせだ。
『あの人カッコよくない?』と噂される水野。だが女だ。
『あの子、可愛いな。誰かナンパしろよ』『相手いるだろうが。フルボッコにされるって』とか言われる澪。だが男だ。
「おい。水野っ 暑苦しいッ 離れろッ」
体格相応にデカい水野の胸を背中に押し当てられて閉口する澪。だが男だ。反応すべきところは反応している。
「ふはははッ 澪タン可愛いのう。初々しいのう」
澪をからかって遊ぶ水野。だが男だ。もとい女だ。作者も時々間違える。
大きな商業ビルのミストシャワーを受けてはしゃぐ二人。
その可愛らしい反応は年相応の女の子らしい。だが澪は男だ。
「俺、新しい水着買ったんだぜ。澪」
「へぇ」
地味に水野の体格と豊かな胸、発達した臀部に合う水着はない。取り寄せになる。
「俺の鍛えぬいた僧帽筋を見せつけてやろうと思ったのにお前ら勝手に遊びにいくし」
こんな残念な台詞を放つ水野。だが女だ。
「もう盆すぎているしなぁ」
「じゃ、プールだプール。来週までにプール行くぞ澪」
「あいあい」
略奪愛ワンチャン狙う水野だが、何故か最後まで行かないのも水野だ。真面目に化粧して艶やかな黒髪を編みこんで服を選べばそこそこで通るのだが。
水野の容姿や努力空しく、彼女の親戚が運営しているホテルの予約は今日もキャンセルと相成った。
後日。
水着の上にフード付きパーカーを着た澪。着替えを終えた水野を見て一言。
「流石水野。カッコいいし可愛い」
「ははは。今年の流行だしな」
可愛らしいバンドゥビキニを身につけて恥じらう水野。すこし眉を寄せて抗議。
「あとカッコいいは余計だろ。気にしているのに」
「そうかなぁ。お前がカッコいいのは事実だろ」
他愛もない言葉を交わす二人。水野からすると澪は可愛い。だが男だ。
「夏ってもうすぐ終わるんだよな」
「だなぁ」
試験が来て、卒業があって、大学に入って。
「こんなバカやれるのは限られているんだよな」
「だな」
二人は連れ立って歩く。男の子や女の子ではなく、大人になる道をゆっくりと。
水野:今日はシラアエに見つからずに済んで良かったぜ
※二人は拙作『Review!』に登場する主役たちです。
水野は恋多い性格で問題児です。




