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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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がさごそ

 がさごそ がさごさ がさごそ

 暑い。暑い熱いあついアツい。


 クーラーをつけて寝転がる。

 すっかり寝過ごしてしまい外は少し明るくなっている。


 ああ。眠い。しんどい。だるい。

 なのに眠れない。眠るにしては興奮しすぎているのだ。


 寝床の中で身体をくねらせる。悶えるように運動して無理やり床に就いて目を閉じる。

 クーラーが効いてきて、うつらうつら。

 朝方の冷たさとあいまってやっと眠気と覚醒めの合間を流離う。


 目を開ければ即目覚め、目を閉じれば幻覚が見える夢現の境を楽しむ。鼻がかゆい。

 俺はゆっくり手を伸ばし、鼻に入れて大きい鼻くその感触を指先で味わう。多分俺はまだ寝ていない。

 指先で鼻くそを弄び、手を洗うために目を開いて立ち上がろうと思うが。


 ああ。めんどう。眠い。

 もっと気持ちよくねかせろ。



 がさごそ がさごそ



 眠いんだって。

 この昏い階段を降りて行って。手を洗うんだ。



 がさごそ がさごそ がさごそ



 ああ。眠い。起きたくない。

 いや、眠くない。寝ていたいのに眠れない。


 先ほどまで指先で鼻くそを弄んでいたことを思い出す。


 手を洗おう。そうしよう。

 立つのも面倒だ。這って降りよう。


 昏い昏い階段を


 がさごそ がさごそ がさごそ がさごそ


 何か触覚のような大きなものが蠢く影。


 がさごそ がさごそ がさごそ。


 影に潜っていく俺。


 がさごそ がさごそ……


  



 変な夢を見た気がする。

 手を洗ってパンでも焼いて目を覚まそう。


 結局ちゃんと眠れなかった。

 ネットサーフィンとTwitterとiGoogle遊びは控えるべきだな。まったく。


 ああ。なんで手を洗わないといけないんだったっけ。不潔だからだ。そうだ。手を洗わないと。



 がさごそ がさごそがさごそ がさごそがさごそ


 起きたくない。もっと寝ていたい。


 でも何故俺は階段を這っているんだ。

 まるで大きなゴキブリじゃないか。


 そうだ。ゴキブリはなんでも食べるというではないか。共食いだってする。


『敵』と認めたものを群れ全体で攻撃し、進化し合う力もあるそうだ。


 変なことを。


 もしゴキブリのほうが実は人間より進化しているならどうなるのだろう。



 やっぱり俺たちはエサになっているのだろうか。クローンか何かで何度も食われたり。バカらしい。


 がさごそ がさごそがさごそ……


 いやだいやだ。俺が寝ていた布団。

 布団のすぐそばにある階段を降りる俺。

 這って降りる俺。


 『俺の家にはこんな場所に階段はない』のに。降りてたまるか。

 だが、俺の手足は勝手に動き、がさごそと動く影たちの前に捧げられる。


 がさごそ がさごそがさごそ がさごそがさごそ がさごそがさごそ がさごそがさごそ……


 悲鳴を上げて食われる。繰り返す夢。


 がさごそ がさごそがさごそ

 がさごそ がさごそがさごそ


「いい加減にしろっ!」



 不愉快な夢に一喝すると目が覚めた。

 ああ。バカらしい。俺はキッチンに向かい、手を洗う。パンでも焼いてコーヒーでも飲んで。

 そうだ。新聞を取りに行こう。


 頭が痒い。寝不足の頭を軽くたたき、階段を降りて玄関口に向かう。


 がさごそ がさごそがさごそ

 がさごそがさごそがさごそ がさごそがさごそがさごそがさごそ

 がさごそがさごそがさごそがさごそがさごそ がさごそがさごそがさごそがさごそがさごそがさごそ

 がさごそがさごそがさごそがさごそがさごそがさごそがさごそ がさごそがさごそがさごそがさごそがさごそがさごそがさごそがさごそ

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