コンビニde斎場はじめました
斎場とは火葬を行う時に死体を焼いたり葬儀を行う設備である。
「今日からうちのコンビニでやる」
はぁ?!
死んで。生きて。生きて死んで。
当社は地域住民の皆様と共に歩む地域密着型のサービスを提供します。
今後ともヨロシクお願いします。
「と、いうわけでだ」
店長はニコリと笑って俺に言ってのけた。
「地下に斎場作ったから」
『はあぁっ??!』
意味わからん。夜中に大声を出してしまう。
「いやぁ。苦労した苦労した。地下掘ったらとんでもないほど金かかってさ。煙が出ないようにするのにも苦労した」
いや、そういうわけじゃないだろ。
てか、バイト料渋るのはそこかよっ?!
「最近の葬儀屋はボッタクリが酷いだろ? 優秀なスタッフを引き抜くのも苦労した」
いやいやいやいや。
「あ、いらっしゃいませ」
深夜とは言え、人は来る。接客最優先。
ウロウロウロ。
こら。さっさとなんか買うか諦めてどっかいけ。
このハゲ店長の言うことを聞き終わるまで俺は帰れないんだから。
「あ、渋谷君。会計お願い」
えっ。面倒だなあ。
「ありがとうございました~!」
ニコニコ営業スマイルで送り出し。
「地域住民の配慮はッ?! てか一等地ですよっ?! ここっ?!」
「パチンコ屋が認められて斎場が認められないわけがないっ!」
いや、胸を張らないで下さい。というか、うちコンビニなんですがっ?!
「ふふふ。ATM、券ショップ、食料販売に日用品販売。二十四時間営業の我が社にとって、地下に斎場を建設することなど大したことはないっ!!」
いや、大したことあります。いつの間に。
「と、いうわけで。渋谷君。君は今日からアルバイトから社員だ」
「はっ?!」
い、いや。俺は確かにハロワ通いしていますけど。
「君達には黙っていたが。私はこのグループの会長なのだよッ」
知ってます。
テレビに出てますしね。
「と、いうわけでガンバレ」
「無理ッス。今すぐ辞めます」
「月給五〇万円だ」
「是非。やらせてくださいませ。会長」
こうして。
俺は斎場サービスの責任者となった。
要するに|地域住民と喧嘩する仕事である。
駅前と国道の程よい位置にあるうちの店は大きな駐車場と豊富な品揃えを誇り、年寄りの多いこの町の老人やDQNの憩いの場として機能していた。
だからってなんで斎場。
当たり前だが煙がどうの、縁起がどうの。
商店街の偉い人がどうのと抗議の電話だの無言電話だの抗議団が来るが。
社長曰く「この辺の土地、全部俺の土地だから」
マジか。
調べてみたらガチだった。
社長。少しは金をですね。
俺たちに還元してくださいよ。
――二〇一五年 高齢化社会に伴う斎場の需要は高まっていた。日本国内において火葬の占める割合は九十七%を超える。
しかし、日本人は穢れ思想を持つ民族であり、死を連想させる斎場や汚物処理施設の建設は必ず住民の反対運動を伴う。
其の反面、斎場は毎年需要が高まる一方であり順番待ちの家族がドライアイスで遺体を保存。一週間、十日と膨大な額の保存費用を払いながら親族の旅立ちを待つことになっていた。皮肉なことに其の中には斎場の反対運動を行っていた人間も含まれる――
彼らの主張を聞いてみよう。
「土地の値段が下がる」「縁起が悪い」「土地の遺産としての価値が落ちる」「地域のイメージが落ちる」
「建つのは悪くないが、俺の街に建てないで欲しい」……etc
ちなみに公営の斎場を利用しない場合。
つまり民間で運営している斎場を利用する場合は。
『二十万円以上余分にかかる』
泣きながら親族の遺体にガソリンで火をつけ焼き、死体損壊で逮捕された者まで出る始末。
「うちの斎場は安いぞ。しかも最新式の死体保存システムも用意している」
どんだけ金かけているんですか。
「なに。ビールを美味しく保存するのも死体も大差ない」
おい!?
「そしておでんを煮るようにまごころ込めて送り出せるわけですか」
「まぁうちのおでんはちょっと汚いけどな」
「汚すぎます」
ぴんぽーん。
「あ。いらっしゃいませー」
「こんばんは~!」
俺と社長は挨拶。なんてこった。
「問題はいまだ依頼がないことだ」
「葬儀場まで作っちゃって。知りませんよ」
葬儀屋も坊主も『金がないから直接斎場で焼きます』と言われて涙目の時代なのに何やってるんですか社長。もとい会長。
社員になってぶっ飛んだ。超赤字である。
この部門の死は俺の人生即死である。
「まぁ。なんとかなるさ」
なるのかよ。
と、いうか。
キキー! ズドンッ!
あ。表で事故だ。
「おいっ! 渋谷君ッ 警察と救急車よべっ!」
「斎場使うチャンスですね」
「バカッ 命に代わりがあるかっ!」
俺をほっぽりだして外に飛び出した社長は物凄い勢いで戻ってきた。かなりの事故らしい。
へえへぇっと。
救命装置は常備しているし、使い方も知っている。
「いくぞっ せーのっ」
どんっっと。
結果的にDQNどもは命には別状は無かったが重い障害を残すことになった。
逆恨みされないか不安であるが、現在のところ何も無い。少し社長を見直した一件である。
「恥を忍んでお願いします」
頭を下げる老婦人は俺たちの斎場サービスへの反対運動の先陣を切っていた夫婦の片割れであった。
人間は死んで初めて解ることがある。
目を逸らしていたことに目を向けることがある。
「誠心誠意をもっておくりださせていただきます」
俺は頭を下げてみせた。
赤ちゃんのオムツから死後の斎場サービスまで。
当コンビニエンスストアは地域住民の皆様に密着。まごころ込めたサービスを提供します。
今後とも。ヨロシクお願いします。
「ありがとうございました。またの来店をお待ちしております」




