世界破壊スイッチ(新型機)
ある日。全人類、地球上のいけとしいけるもの全てに「かみ」の意思が語りかけた。
「お前等揃って押してくれないからたまには趣向を変える」
24時間以内に世界の何処かにある世界破壊スイッチを押さないと世界が滅ぶらしい。
俺? とりあえずチャーハンを頼みに行こうと思う。
探せって? 嫌だよ面倒くさい。
「とりあえずラーメン。あとチャーハンも頼んだ」
俺が注文するとラーメン屋の親父は楽しそうに呟く。
「お兄さん余裕だねネ」
「おう」
うむ。ここのチャーハンは絶品だ。
まず。ラードを引いた鍋にご飯と卵を突っこんで一気にかき混ぜるときの芳香がたまらない。
「うわあああん! 世界は終わるんだッ?! あ。お姉さん。ビール追加とラーメン追加」
「はぁい」
ご飯がパチパチと炒められる香りと卵が焼ける香り。
ジャッ ジャッ と親父が鍋を振る音が食欲をそそる。
「もうTVでもニュースでも持ちきりね。其の話題」
「お姉さんも聞いたでしょ。アレ」
「聞いたというか、頭の中が光で爆発したような凄い感じだよね」
タバコの臭いが鼻につく。
仕方ない。ここは大衆食堂だ。
大衆食堂だけに体臭も。ってやかましいわ。
「はい。お待ちッ」
どんっとおかれたチャーハンにがっつく。
「頂きまっすッ」
アツアツのラード油と卵を含み、申し訳程度のハムの千切れと小さな小さなネギの入ったチャーハンは380円。
『24時間以内に世界破壊スイッチを押さないと世界を滅ぼす』
「そうそう。『かみ』って名乗っていた」
「俺も聞いた。今まで五つ作ってみたけど誰も押してくれないから押してもらえるものを作ったって」
湯気を含む米の塊を口に含むともちもちした噛み応え。
それでいて口どけがいい。素早く広がる米の味。
「新興宗教のほとんどが教祖さま自ら否定にかかっているよな」
「笑えるよな」
安くて早くて美味い。正しい体臭中華である。
あ。字が違う。……だってここ汚いもん。
「S価を信じないと地獄に落ちるらしいぞ」
「マジか」
「『かみ』が言うには、地獄のほうが少々しんどいが女の子綺麗で楽しいらしい」
「宗教家涙目だ
ちょっと油っぽいのがいただけないが、おかげで口の中に米がパァっと広がってとても美味しい。もし近くを訪れることがあれば食べに来ても損は無い。
「極楽には女はいないってさ」
「あ。それダメだ。俺も地獄に行く」
「天国は女いるらしいぞ」
「罠らしい。元々耶蘇の神が勝手に作ったものらしいから歴史も浅くて過疎ってるんだと」
「俺を信じないやつは地獄行きだ~! だもんな。しゃぁない」
お箸の国の人たちですしな。俺たち。
「あ。ビールとギョーザも頼む。ギョーザは二人前」
「あい」
蒸気がほとばしり、大蒜の芳香が食欲をまたそそる。ビールを入れる試験に合格したという店員さんが生ビールを注いでくれる。苦さと冷たさ。ほのかな酔いが心地よい。
「そろそろラストオーダーお願いします」
親父が叫ぶ。世界が滅びる前の一皿でもある。
「あ、このままで」
「あ、俺納豆チャーハン」
「俺はそれに天真飯の卵と塩餡かけで」
「俺は賄いのあまりモノの唐揚げを突っこんだチャーハン」
「オムライス」
「どこが中華だよ」
「隠しメニューにあるんだよ」
「マジか。俺も頼む」
「閉店時間が奇しくもタイムリミットとはね」
親父は寂しそうに呟いた。
「時間までには間に合わせてくれよッ」
「なら配膳手伝ってくれっ」
給仕のお姉さんまで料理に参加。
下手すると客まで作っている。
店としてどうなのだろう。
あと、俺のギョーザ忘れてね?
「あ。わりぃ。忘れてた。ギョーザお待ちっ」
コレでもかと言うほど小さなギョーザに、ネギとニンニクと申し訳程度の豚肉。お値段170円。小粒だが香ばしくて美味い。口に含むと肉汁とネギの味。
ニンニクの香りが鼻の中を満たす。
ビールを口に含む。
喉に突き刺さる泡の心地よさ。
鼻を突く泡の苦味。たまんないね。
ニュースでは各国の捜索隊がなんとかスイッチを確保するため最後まで頑張っているというが。
「押したら滅亡。押さなくても滅亡って探す手間だけかかって意味無いじゃん」
「そーだな」
『俺もそう思ったから今回はなしにする』
俺たちの頭の中で其の声が響いた。
翌日。
各国政府から『かみ』宛てに裁判と賠償請求が起きたが。
『かみ』は出頭しなかった。




