世界破壊スイッチ
「世界中の核兵器爆発、火山噴火。プレート大地震を同時に起こす素敵なスイッチ」
ネットオークションで手に入れたそのスイッチの価格は100円。
押せば世界は滅びます。
絶対に押さないで下さい。絶対に。
『世界破壊スイッチ 100円から。在庫五つ』
インターネットのオークションサイトで俺はその商品を見つけた。クク○ス・ド○ンのザ○のようなネタ商品なのだろか。
みると誰かが既に四つも買っていた。
履歴を見る限り100円のままで落札されている。
酔狂な奴もいるものだ。
とりあえずそれを買った。
買った瞬間に手元にそのスイッチがあった。
幻だと思ったが、自らの掌の感触は幻覚とは思えず。
『購入ありがとうございました』
気づかぬうちに出品者「かみ」からのメッセージも届いていた。
「これ、ホンモノなのかなぁ」
押せば世界が滅ぶ。
どうみてもバードカウンターをいじったようなしょうもない見た目のスイッチだが。
『押すな』
大きく書かれている。
押すなと言われたら押したくなるだろう。
どうしてこんなもんを。
押せば。滅ぶかぁ。
一応、身内はいる。
家族は。まぁ健在だ。
説明書を読む。
押すと世界中の核兵器と火山が一斉に爆発し、全地域で大地震が起きる。そんないい加減な説明しかない。
「信じろってほうが」
馬鹿らしい。
しかし、押してみたい気も否定できない。
俺がこの世界の生殺与奪権を握っている。
そう思うと、ゾクゾクする愉しみがある。
「これが、権力者の手に渡ったら世界制服も可能だろうな」
押したら死ぬぞ。皆死ぬぞ。押すな。押すなよ。な武器だが。
「振られたら。押すとか」
笑う。
職場に来るあの綺麗なお姉さんに告白して。振られたら試す。悪くないアイデアだ。
「明日。試してみようかな」
結局。押さなかったが。
いや、告白なんてするわけない。
振られたら職場に通い難いし。
「銀行強盗をして『押すぞ』とか」
妄想をするのは愉しい。
しかしそれを警察の人々が信じるかは別問題。
結局。押すことはない。そんなこんなで俺はこの『百円』の買い物を手に、ニコニコ笑いながら仕事をすることになる。
今日もつまらなく。明日もつまらなく。されど明後日もつまらない。
「こんにちは」
あのお客さんが声をかけてきた。
「いつも、御利用ありがとうございます」
俺は彼女に頭を下げる。
「すみません。先日は傘を貸していただき」
「あれ、置き傘で誰も取りに来ないものですから。それに日傘ですし」
俺は彼女とたわいの無い雑談を楽しむ。
「これはお礼の気持ちです」
「あはは。どっちかというとデートのほうが嬉しいな」
冗談を言うと、彼女の頬が赤くなる。
え。もしや?!
「いい。ですよ」
冗談だったのに?! やったぁ!!
俺はスイッチをおいて彼女との待ち合わせの場所に急ぐ。
あのスイッチを買ったほかの四人はどんな奴だったのだろう。
俺の部屋で、猫たちのお気に入りのオモチャとして遊ばれているあのスイッチ。
世界は猫一匹。
そして世界の誰か四人の手に握られている。




