A4ノート
おじの居住スペースからおばあちゃんのノートがでてきた
未来世界に生きるおじと姪の会話。
お婆ちゃんのA4ノートが出てきた。
お婆ちゃんが高校生時代に使っていたものらしいのだけど。
「けじ~~ けじ~~」
圭一おじさんはめんどくさそうに意志入力コードを外してこっちを見る。
今時コードつけているのは圭一おじさんだけなんだけどね。本人曰くチップを埋め込むのは嫌だとのこと。
「紙のノートか。今時珍しいな」
「すごいお宝?」
というか、紙で出来ている本だって圭一おじさんが持っているモノしか知らない。
昔は紙の本は一般的だったけど伐採をする国は植物虐待と言って各国から叱られるのだ。今は木材だって培養で作れるし。
でも培養木材や紙ですら文句を言う団体もいる。へんなの。
私が物思いしている間におじの言葉は続く。
「そうだな。学術的資料としては計り知れないな。当時の学生が鉛筆で書いていたものだからな」
「手書きのほうが昔の文字入力より覚えやすいんだったっけ」
「そうだよ。今はスキルソフトをロードするだけでいいけど昔は知識や技術はその人だけのものだったからね」
そういってまたコードをヘッドギアにさしなおす。ヘッドギアは誤差が出るから辞めたほうがいいんだけど、おじさんが言うにはそれはそれで昔のように誤字脱字を見つけるような楽しみを感じるらしい。面倒なの。
「けじみたいにお話を今でも考えている変り者もいるじゃん。別にけじは精神治療が必要なわけでもないでしょ?」
「これは趣味だ」
趣味。
この時代趣味という概念も曖昧になってきている。
記憶も知識も技術も経験もスキルソフトにされていて、ダウンロード一発で利用可能だからだ。
一般に目に入る『面白いお話』どのような形態であれプログラムが作る。
圭一おじさんみたいに自分で紙の本を読んであれこれ文章を考えたりしない。
「紙の本って今すっごく高いんだよね」
「普通、ロードしたら終わりだからな」
圭一おじさんがいうにはおじさんが若いころはタダ同然の値段だったらしいんだけど。
とりあえずおじには媚びを売る。
彼は子供が好きだ。子供の姿ならなお効果が高いであろうし。
ええ。ババアですけど何か?!
「ねね。このノート貰って良い? これでナニが手に入る?!」
「お前にはやらん」
けち。
「けじ。今時紙の本なんて読むのあたしたちだけだよ」
「普通手に入らないしな」
私たちは味データではないトマトを食べながら豆苗の育ち具合を見て楽しむ。今時本物の植物を育てているのがばれたら種子の管理がどうとかで叱られるんだけどおじは知らん顔。
「けじ。楽器が出てきた」
「お前のお母さんが使っていたギターだな」
「けじ。すっごく物持ちいいよね」
楽器も高いのに。なんで貧乏なおじがもっているのだろう。
ひょっとしてお母さんの実家って超お金持ちなのかなぁ。
「けじ。老化治療をうけなよ」
「考えておく」
今の時代歳を取るのってすっごく贅沢なんだよねぇ。羨ましいな。具体的に言うと皆若い姿でバリバリ働かないといけない。事故でも起きない限り死ぬに死ねないのだ。
「けじ。まさか老衰死に挑戦する気?」
「想像に任せる。俺のバックアップは作りたければ作れ」
人格バックアップが存在する今の時代でバックアップもとらずに老衰死を目指す。
いくらおじが酔狂でも、それはないか。どこかで作っているでしょう。
この時代。
老衰死なんて一番贅沢なんじゃないかなぁ。
死にたくないけど。
死ぬっていうことには少し憧れるかもしれない。
これってけじのいう『私の物語』なのかもね。
圭一さんは『夜明けまで恋して』のラストにちょっと出てきます。
また、『ひのきの棒とスライムな彼女』の主人公でもあります。




