異世界憑依物語
「すまん。間違いで君を殺してしまった。私は神だから君を異世界で生き返らせてあげよう」
そんなこと言われても困る。なんでも私の身体は既に火葬済みらしい。昨今はコンビニの斎場サービスが発達し、煙が出ないスチーム処理でサクッと骨まで処理できちゃうからなぁ。
私は謝り倒す自称神に頼んだ。
「そんなことよりお父さんを生き返らせてよ」
一〇年前に喧嘩別れしたまま死んでしまった。謝れるなら謝りたいしそれが叶わないとしても異世界とやらで良いから元気に生きていてほしい。
「無理だな」
自称神曰く、魂というものは神々が用いる資産のようなもので貸し借りを用いて人間社会の金銭同様実数より多く運用される。
100円でアイスを買った場合、私の100円と買ってもらった店のおばちゃんの100円は同じ硬貨ではあるが運用が異なるように、また100円を手放した私からみて100円玉は私のものではないように記憶がリセットされる。生まれ変わりは害悪でしかない。買い取ったにも関わらず100円を支払わないようなものだ。
「でも、私を異世界で生かすようなことはできるのよね」なんとかしてよ。
自称神曰く、海外資本とのスワップ取引だの為替だの先物だのの例え話をされたがそこはなんとかと頼み込む。
結論だけ述べると私の望みを実行するとお父さんは異世界でいきなり他人の意識を乗っ取っているような状態に陥るらしい。既に別人の魂として存在しているからしい。
「故に大変酷い目にあう。正直お父さんの為にもお勧めできない」
「先物の話をするなら私の魂を補償金にしてテコ効果でなんとかならないかしら」
例えば十分の一の補償金で一〇倍の金銭を動かすこと等を金融の世界ではテコに例えてリバレッジと呼ぶ。昔教授がなんか授業でボソボソやっていたのを思い出した。たぶん合っている。
「債務不良に陥ったら悪魔の手をかりんといかんぞ」
「いいじゃない。悪魔結構。それよりお父さんに会わせて。ずっと気になっていたのだから」
若くして死んだのは納得いかない。
しかしもっと理不尽なのは死んだのにお父さんをはじめあっちに逝った友達やお爺ちゃんたちに会えないらしいことだ。
「親族の魂はもとより近いことが多く難しい。同一の魂である場合もある。この場合文字通りの今生の別れだ」
しばし悩んでいた彼はポンと手を叩いて『死神』とやらを呼んできた。ダルそうな顔の少年と美女だ。
「えーっと。今度はなに? え? 異世界憑依依頼の女の子? それも自分の魂じゃなくてもうすでに処理済みの魂? むっちゃダルいんだが」
かれ、『山口』さんが嫌そうに頭を掻く。
同じく『フキコ』さんという死神さんも気だるげだ。
頼りになるのかしら。この二人。
そこから先の意識は私にはない。
娘と喧嘩した。些細なことだった。
むしゃくしゃして歩いていたら胴に衝撃を受けた。なにかなとおもっていたら自分の下半身が見えた。どうやら車に轢かれたようだ。これはこまった。今夜はケーキを買って娘と仲直りするつもりだったのに。
そして今、よくわからない貴族の作法とやらを教えられている。目の前にいる男は私の教師だった男らしいのだが記憶にもやがかかったように実感がわかない。
取敢えずチョビ髭を引っ張ってみる。うん。痛がっているから夢ではないはずだ。
あ、殴られた。おのれ父上に頼んで解雇してもらうぞ。こういうところを見るにこの身体の持ち主は傲慢な性格だったと思われる。いや、これは私の元の性格かもしれない。悩むところだ。
「取敢えず若は後で庭一〇〇周です」
「横暴だろ。俺を誰と心得る」
普通の日本サラリーマンだけどな。社畜で妻に頭が上がらず娘に触るなと馬鹿にされるおっさんだが今はピチピチの若者である。確か美形だったはずだ。やったぜハゲが治った。娘よ見てくれ父さんは若いころ美男子だった。妻よお前もきっと惚れ直す。ムフーとニヤツク俺に教師はこう抜かす。
「親の権威を傘に使おうとするガキンチョですな」
「オーケー。表に出ろ。今日こそボッコボコにして」
ボコボコにされた。この爺マジ強い。
「若。貴族というものはですな」
加えてめっちゃやかましい。
俺は元ヤンキーだぞ。貴族とか知ったことか。ああ。はい。ごめんなさい許してくださいぐああああああ。
貴族の教育マジ鉄拳支配。
ファンタジーな教育野蛮過ぎるだろ。
暴力で従えるのは指導力がないしるしだと現代教育では……ちょ。爺その棒はなんだ?!
「獣は鞭で打ち、貴族の子女は飴を与えよとわが父は」
それ焼き印だからマジやめあわわわわわ!!
「回復魔法にて後で治せますからご安心を」
「安心できねえええええええええ!!」
現代知識はあるにはあるが、実務というものや土壌知識などは現地の人間に勝てるはずがない。
加えて日本のヤンキー上がりのリーマンが知っている知識なんてほとんど漫画の付け焼刃で使えない。バイクは使えるがバイクは作れない。せいぜいやりたくてやりたくて仕方なかったウインドサーフィンをなんとか根性で自作(理論解説して後述の婚約者の力を借りた)程度だろうか。爺は喜んでいたが。爺の癖にナンパに精を出すな。その娘は俺が目を付けた。あ、やめてやめて。リュカお前が一番だからぐああああ。
婚約者なんて奴がいるが、こいつがとんでもない乱暴者で前世の女房ならキックで済んだのにこいつは家を一撃で吹っ飛ばす火球を出してくる。魔法抵抗力とやらがなければ俺は即死である。
それでも物心つく前から人質として同じ家に住んでいるリュカである。人質と言うよりもはや家族だし、あっちの親も俺との婚姻は望むところらしい。
子供ができるとあっさりおとなしくなった。結婚前の苦労はなんだったのか。
正直、子供なんて俺にできるのは変な気がする。
ちんちくりんの目玉といい、未だ生えそろわぬ髪の毛といい、しわくちゃの赤い顔といい、おれはさておき美形のリュカが持つ特徴のカケラのない。これで女の子なのだから嫁の貰い手などいないだろう。
「だから! 俺が! 生涯可愛がって」
「おとうさんウザい」
「ジャスティン、あなた娘離れしなさい」
八歳になった娘はそういって俺をいじめる。
最近リュカに似て美少女が増してきた。
家族でピクニックに向かう。地方領主である我々にとって視察も兼ねている。
青い水が見えるのは俺まで一緒に水を引くため工事したため池だ。これで恐らく一〇年は干ばつを恐れずともよいだろう。
親父は収支計算を冷静に考えて次期領主の奇行に目を瞑ってくれる程度には元気だ。爺は引退したが未だ元気であり最近うちの娘に粉をかけてくるので殴る。本人曰くただ頭を撫でただけというか知ったことか。
「なあジーニ」
「なにジャスティンお父さん」
気になっていた。
何故これほどかわいいのか。
親のひいき目を抜きにしても彼女は可愛らしい。
「俺たちは魂からして同一、一心二体、同じ魂らしいぜ。『美晴』」
「『山口』さんたちがいっていたね。だからいつも喧嘩するのだって。『貞夫』父さん」
俺たちは青い空のもと、青いため池の数々を眺める。
「あのときはごめん。お父さんに会いたかった」
「いや、俺こそごめん。本当に謝りたかった。あのさ、憑依したジャスティン君にはマジで悪かったと思う。でも君に逢えた。神に感謝したい」
「ジャスティンはあなただから、あなたの生き方をして。次期領主として」
「ジーニ、おれがいる限り過労死孤独死はさせんぞ。覚悟しろ絶対幸せな結婚ができるようお父さん全力で」
彼女はものすっごく嫌そうな顔をした。
「そういうのが重いから嫌なのよ! 死んでも馬鹿が直らないのお父さんは!??」
「すいません」
二人で笑う。
見下ろすとため池を全力で広く作りすぎた所為で領民がウインドサーフィンして遊んでいるようだ。お前ら勝手に真似しやがって。特許料取るぞ。
まぁうちの領内なら許すが。
あそこはいろいろな魚を放流したので来年からは釣りスポットとしても利益を出せるはずだ。
俺たちはウインドサーフィンを用意し、家族で遊ぶ。
その革新的な技術が軍事的にヤバいものと判明しあとで国王に家族そろってお叱りを受け、王族にウインドサーフィンを教える羽目になるのは後日談である。




